日経ビジネス5月8日号の特集「顧客は奪い取れ 強い会社の喧嘩術」では、競合他社と戦ってでも顧客を奪い取る術を紹介してきた。今回、経営者が多く通う格闘技道場「士心館」の林悦道館長の実践術と経営者たちの考えを元に企業が勝ち残るための6つの奥義としてまとめた。下巻では2つの奥義を紹介する。
喧嘩の奥義5 ライバルの虚をつく
誰もが戦意を失うタイミングで攻勢に出る――。不況下で競合他社が様子見に徹しているタイミングで攻勢に出ることで大成功を収めたのが、名古屋市の美容・健康機器メーカー、MTGの松下剛社長だ。
2008年に起きたリーマンショックで競合他社が守りに入る中、新商品開発や人材採用を積極化する「逆張りの戦略」(松下社長)で急成長を果たした。08年9月期に約20億円だった売上高を10年間足らずで20倍に伸ばした。17年9月期の売上高は400億円を超える見込みだ。
不況下では一般的にメーカーは展示会への出展も抑えて守りに入るものだが、「不況のときこそ、売り上げ確保のために理美容品を販売する事業者は新商材への需要が旺盛になる」と読んだ松下社長が営業と新商品開発で攻勢に出たことが功を奏した。「戦(いくさ)のときに弾が無くては戦えない」(松下社長)と自己資本の比率を厚めにする堅実経営に努めてきたからこそ、不況下で積極的な投資に転換することが可能だった。

同社の商品開発の強みは大学や大企業に眠った研究成果や技術を探し出して活用することだ。その点で「日本は宝島だ」と松下社長は感じている。
15年7月に発売し、既に90万台以上が売れているヒット商品「SIXPAD(以下、シックスパッド)」も眠っていた研究成果を掘り起こすことで生まれた商品の1つだ。シックスパッドは腹部など体の鍛えたい部分に貼り付け、筋肉に振動を与えるトレーニング機器。筋電気刺激(EMS)と呼ばれる仕組みで、筋肉を動かす。そのトレーニング効果の研究を40年以上も続けてきた京都大学の森谷敏夫名誉教授(役職は現在)を見出して、その研究成果をもとに共同で機器を開発した。
さらにブランド作りの努力も余念がない。世界的に知られるサッカー選手、クリスティアーノ・ロナウド氏にシックスパッドを使ったトレーニングプログラムの開発に参画してもらった。世界のセレブを相手にしても物おじせずに自ら交渉をする行動力も松下社長の強みの1つだ。
ロナウド氏以外にも世界的なアーティストのマドンナがプロデュ―スしたスキンケアグッズなどを「MDNA SKIN」というブランド名で販売している。マドンナ自身もスキンケアにはこのブランドの商品しか使わないほど気に入っているという。マドンナとスキンケア関連商品の共同開発を望む企業は数多くあるはずだが、実際に協力を得ることができたのは、松下社長のみだった。
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