日本企業は顧客を奪い合う力が弱くなっていると言われている。背景には国内産業における序列の固定化がある。激しいシェア争いをする機会が減った結果、競合相手と喧嘩する意欲と技術がなくなったことが原因として挙げられることが多い。
だが海外企業と伍して戦うには顧客を奪い取る技術を磨くことが欠かせない。特に競争が激しい新興国では非常に重要だ。例えば成長著しいインドは競争が激しい国のひとつだ。人口13億人でGDP成長率は7%と市場が拡大している。現地メーカーに加え、グローバル企業がこぞって参入し、激しいシェア争いを繰り広げている。テレビも代表格で、韓国サムスン電子などアジア勢と激しい販売競争を繰り広げている。ソニーはインドの主戦場となる32インチテレビ市場で他メーカーから首位を奪還した。2016年の最も大きな商戦期である10~11月に販売量を伸ばすことに成功した。
その原動力となっているのは値引きやインセンティブではない。日々、営業担当者が販売店に通いつめ商品を陳列してもらうなど売れる環境を整えてきた。この5年間で営業改革に取り組んできた成果が実を結んだ。
その営業改革の特徴は販売実績を基に戦略を立案することだ。市場規模全体の状況に加え、サイズ別の平均販売価格がどう推移しているかを掘り下げて確認する。その上で期初に立てた販売計画を実現するためには、どの価格帯に力を入れていくべきかを決める。
本部が目論んだように各店舗に陳列できているかどうかを確認するため、営業担当者が販売店を足繁く通った。以前は陳列できている店舗数が少なかったり、陳列されていても目立つ場所に置かれていなかったりしたことが原因で、計画を達成できないことがあった。
インドは広大で25の販売拠点がある。各販売拠点を通じ、8000店分の情報を毎週集約する。本部が決めた販売目標に対してどう進捗しているのかを確認できる体制を整えた。ただPOS(販売時点情報管理)システムが整備されていない店もあるため、毎日担当者が量販店に出向くことで在庫数を数えることにしたのだ。
本部は報告を受けて、どこに課題があり改善しなければならないかが見えてくる。例えば販売店の展示台数は予定通り実行されているにもかかわらず、販売数が伸びない。その場合は量販店に配置した店員がきちんと説明できているのかも確認するといった具合だ。
こうしたように販売台数という数字に対して、すべての営業担当者が粘り強く意識することでシェア首位を奪えた。ソニーインディアのカスタマーAVの馬場忠久マーケティングヘッドは「売り場は鮮度が命でベストコンディションを保たなければならない。営業担当者にしつこく言い続けなければ実現できない。強い製品と両輪で現場力を強化すれば競争優位に立てる」と話す。
ソニーの屋台骨だったテレビ事業は2013年度まで10期連続で赤字だった。2015年度にエレクトロニクス事業が黒字となり止血は済んだ。インドで戦ったやり方を全世界に広げることで、底力となる販売力を高め、反攻に弾みをつけたい考えだ。

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