「幹部には自由に新規事業を考えれば良いと伝えているが、どうしても守りに入ってしまう。とびきり変わった案件は私に報告されるまでに消えてしまう」(西村会長)。

 変わった案件の中には、まだ市場は育っていないが成長する余地が大きいなど、将来の可能性を秘めているものもある。だが失敗する可能性も大きくリスクが高い。そんな案件ほど即決しないと他社に取られてしまう。そこで定期的にボツ案件をチェックして、西村会長がその場で即決してしまうのだ。

 最近では太陽光発電への投資だ。3年間で約200億円投資し、全国各地で大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設する案件だった。

 当初社内から自社にはノウハウがないという理由で反対された。だが発電した太陽光電気の買い取りを20年間保証されていたり、設備投資を損金として計上できたりするなど西村会長には魅力的に見えた。

 社内の反対を押し切り参入した。すでに福島県須賀川市のゴルフ場跡地に約10万枚の太陽光パネルを設置するなど稼働し始めている。西村会長は「いま電気の買取額は安くなっている。あのとき即断していたから、いま大きな利益を得られている」と話す。

スコアが半年で上向かなければ売却

 進出だけでなく、撤退の基準を明確にしている経営者もいる。北海道富良野市などでホテルを運営する北海道ホテル&リゾートの小林英樹社長だ。同社が運営する「ホテル ナトゥールヴァルト富良野」は大手旅行口コミサイトで高い評価を得ている。今でこそ同地区内でも指折りのスコアを得ているが、3年前ほどはひどい数字だった。スキー場にも近接し、眺望も良いホテルなのに評判が悪かった。小林社長は「どうしたらこんなに低いスコアを取れるのだろうかと言われるほどひどかった」と振り返る。

北海道ホテル&リゾートの小林英樹社長は改善提案はすべて了承し社内を活気づけた(撮影:吉田サトル)

 そこで小林社長は退路を断つことにした。社員に対して「半年以内にスコアが伸びなければ売却する」と宣言したのだ。低迷するスコアのままであれば存在意義はなく、売却した方が良いと考えたからだった。撤退の期限を明確にすることで社員を鼓舞しようとした。

 社員は小林社長の宣言が本気であることを知っていた。このホテルは1972年に小林社長の両親が創業した。その後経営が行き詰まり、2001年に他社へ営業譲渡。2006年に小林社長が買い戻した。再びホテルを売却してもおかしくはなかった。撤退基準を全社員に共有することで、危機感を醸成した。「現場に『売り上げをあげろ』といえば、おかしなことになるから言わなかった。お客様の満足度を高めれば自然と売り上げはついてくると思った」(小林社長)。

 小林社長は顧客の満足度を高める提案なら何でも認めた。大手ホテルがやらなそうな提案であればやってみることにした。什器の導入など費用がかかる提案もすべて認めた。やってみて評判が良くなければ、すぐにやめた。これを繰り返したのだ。「なかには失敗するだろうなと思いながらも認めた提案もある。とにかく社員に勝ちぐせを付けて欲しかった」(小林社長)。

 すると、日を追うごとにスコアが伸び始め、売却することもなくなった。「あのとき撤退の基準を決めていたことで社員がひとつになれた」(小林社長)。

 これらの経営者に共通していることは即断即決して、いち早く取り組み、結果が悪ければすぐに戻ろうとしていることだ。大企業では経営者や役員が自身の責任を回避するために無駄な会議を重ねているケースがある。そのすきをついて、こうした新興企業が攻める。不確実性が高い今だからこそ、独自のルールを作って、一気呵成に攻め込める企業が強い。