価値体系辞書は簡単に言うと、収集する大量の文章を解析し賛成か反対かを判断をするための機能。前述の「東南アジア市場に参入すべきか」という経営上のテーマに関する文章検索では、その賛否を判断できる情報が入っているかどうかを見つけ出す。

 そのあとに相関関係DBを使い、単語と単語の結びつきから文脈を解釈し、賛否の判断材料に使う。わずか80秒間程度で、大量の情報を集めてAIが判断材料を提示し、人間では到底不可能な客観性や中立性をもった意見を述べられるのが特徴だ。

 現在は英語での“会話”となるが、今年9月までに日本語対応が終わる予定。自社の経営環境や財務状況など、各社固有の情報や経営課題も加味して意見を述べられるようにするなどの改良を続け、2~3年後の実用化を目指したいという。

複数の企業と経営用AIの実証実験開始へ

 これまで10社以上の顧客に同AIを紹介し反響が大きかったため、複数企業と共同で実証実験を始める計画。日立グループ内でも順次、試験的に利用をしていく方針だ。

 「大量のデータを分析したうえで、自社の競争優位性を見出せる機会がどこにあるのかを見つけたいという悩みを持っている経営者や経営幹部は数多い」。同AIを開発している日立の柳井孝介主任研究員は、このような経営判断をサポートするAIの需要は非常に大きいと考えている。

 もちろん、今はまだ企業の経営判断ができるような高度な能力を持つAIは世の中にない。だが、「このまま進化が続けばいずれ、企業の経営層が持つ機能の多くをAIが代替できるようになるはず」。米国の研究機関インスティチュートフォーザフューチャー(IFTF)の研究者デビン・フィドラー氏は、こう予測する。同氏は現在、「iCEO」と呼ぶ、経営マネジメント業務を自動化できるソフトウエア開発をしており、AIと経営についての研究を続けている人物だ。

 意思決定を迫られた際、有力な決め手がないと会議は長時間におよび、結局、先送りを続けてしまう日本企業は少なくない。しかし近い将来、日立が開発しているような“AIの経営参謀”が客観的な意見を述べ、決断できずに迷う経営者の背中を押す使い方が普及するかもしれない。もしそうなれば、“決められない経営”に現場の社員が振り回されることは少なくなるだろうか。