マイナス金利の導入、過激派組織「イスラム国(IS)」の大規模テロ、パナマ文書の漏えい……。2016年も予測不能な出来事が起こり続けている。こうした解析不能な経営環境を示す言葉として、ある単語がビジネスの現場で頻繁に使用されるようになってきた。「Volatility(変動)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧)」の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」だ。

 想定外の出来事が次々と起こった――。

 ここ最近、決算会見などの現場でこんな言葉を口にする経営者が増えている。想定外の価格の変動、需要の落ち込み、海外情勢の悪化……。事前に「こんなことが起きた場合」と入念にリスク予測をしているにも関わらず、それを上回る出来事が相次ぎ起きているのだ。言い訳がましくも聞こえる「想定外」と言う言葉だが、これは日本に限った話ではない。2010年代に入り世界の経営者や政治家の間で、こうした解析不能な経営環境を示す言葉としてある単語が頻繁に使用されるようになってきた。

 「Volatility(変動)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧)」の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」だ。

 VUCAは1990年代後半に米国で軍事用語として生まれた単語だが、2010年に入りユニリーバなどの経営者がアニュアルレポートで使用し始め、ビジネスの現場にも広がった。1月下旬に開催された世界各国の要人が集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、人類が直面する現状を称した「VUCAワールド」という言葉が飛び交っていた。

なぜVUCAワールドになったのか

 「世界はVUCAワールドに突入した」。KPMGコンサルティングの古谷公パートナーはこう指摘する。イスラム国(IS)による大規模なテロ、パナマ文書の漏えい、マイナス金利の導入…。「VUCAの時代にはこうした事前には想定できなかった事象が次々と発生してしまう」(古谷パートナー)。

 世界がVUCA時代に突入した背景には様々な要因がある。

 例えば、テロ行為件数の増加。2000年に比べて世界のテロ発生件数は10倍以上に増え、企業活動や政府の外交政策に不確実性(Uncertainty)を与えている。

 それを説明する一つの要因が、技術革新原因説だ。インターネットの普及で、ISのような特異な思想の集団でも世界中に容易に情報を発信できる時代が到来した。以前は各コミュニティーの少数派として孤立、無力化されていたが、今はそうした人間がネットワーク化され大きな勢力を形成していく。そう考えれば、社会のあちこちで予測不可能な事態が頻発することも、ある意味で当たり前のことと言える。

 また、デジタル技術の進化、輸送手段の発達、企業による海外現地生産の推進が加速したことは、企業のボーダレス化を進め、複雑性(Complexity)を高めている。ネット企業のグーグルが自動運転市場に参入したり、通信会社のソフトバンクが電気小売事業に参入したりと、業界間の境目は以前に比べて見えにくくなった。

 市場に目を向けても複雑さと曖昧(Ambiguity)さは色濃くなっている。「かつては『先進国=成熟市場』『新興国=成長市場』と言う方程式が成り立っていたが、実際はBRICKSと呼ばれる中国やロシアなどの新興市場の成長は想定以下」(古谷パートナー)。変化が激しく曖昧なために先を見通せず、事業戦略は決めにくくなっている。

 こうした「想定外」の繰り返しで、経営危機に陥った企業の1つが、シャープだ。

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