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 「Dトールの魅力は安定性と安心感。どこへ行っても同じだから、またお店に来たな、ってホッとする」

 え、それならチェーンであればどこだっていい、たとえばSタバでも。納得の行かない顔のイトウに、S氏は続けた。

 「店員がポロシャツを着てるチェーン店もありますけど、あれはラフすぎますね。それと、例えばSタバですが内装が凝りすぎていて、価格との乖離がある。それに、いるでしょ、こじゃれた街のSタバでMックのPC持ち込んで仕事してる人。あれは絶対雰囲気に酔ってますよ」

 そうなのだろうか? 確かにSタバはお洒落感がある。だからこそ、あの空間をより長く楽しむべく、仕事を持ち込めばコーヒーを飲むだけではなく、タスクも片付いて一石二鳥、得した気分になれる。それに、職場から遠く離れたお洒落な街のど真ん中で、切実な思いで目下の仕事をやっつけている人だっているはず。こう反論するとS氏は言うのです。

 「『外で仕事』っていうのが酔ってます。『やってる、できてる、頑張ってる』を人に見せて得られる妙な満足感!? 分かりますよ。若い頃のツンツンしてた時のボクもそうだった。結婚直前は成績落としたくなくて土日も働いて、資料を家に持ち帰ってた。だけど、やってるふりです。たいしたコトできてない。仕事は職場が一番はかどる」

 己を振り返ると、そんな気もしますけど……。でも外でお仕事というのなら、SさんだってDトールでお仕事されてますよね!?

普通のブレンドで寛いで、松竹梅で攻め落とす

 突っかかると、S氏は穏やかに返した。

 「会社のない土日は余計にブレンドコーヒーが美味しく感じる。だから休日のDトールには基本、PC、タブレット、スマホは持って行かない、小銭とタバコだけ。だけど、コーヒーで体をオンにすると自分にスイッチが入る。そういうときにやりたくなる仕事もあるんです。それが、シナリオ作り。見積もりも重要なシナリオの一部、それでボクは、見積もりは“松・竹・梅”の3種類を作ります」

 見積もりで松竹梅!? 何ですか、それ。
 するとS氏、ぐいっと体を前に乗り出し、目力をマックスにして話し始めた。

 「“松 ”はお客さんの要望に100%応えるけれど予算オーバー。“竹”はお客さんの要望を8割叶えて予算はちょっとオーバー。“梅”はお客さんの予算に収まってるけどやりたいことは50%しかできない。お客さんが選ぶのも、こっちが売りたいのも“竹”。だから“竹”の見積もりに力を入れる。案は3つ出すのが大切です。お客さんが自分で選べば後々揉めない」

 営業の話になると力の入るS氏は、根っからの仕事人なのだろう。
 仕事が趣味なんですかね、と聞くと、S氏はぼんやり空を見つめてつぶやいた。

 「ボクは無趣味なんです。やりたいことが何にもない。だから休日のボクはボーッとしているだけ。気の抜けたコーラみたいになってます。完全放出、だらしない男です」

 それだけ己の全てを出し切ってお仕事をされている。だからこそ、安心、安定の、お洒落すぎず、ラフになりすぎず、お仕事をする人の緊張感を損なわない雰囲気のDトールで自分を復活できるのだろう。ムードに惑わされる自分はまだまだ、仕事への取り組み方が十分ではないのでしょうね(汗)。ひとりあわあわしていると、S氏が続けた。

 「ボクにとっては『仕事=ゲーム』なんですよ。リアルRPG、広い意味でのロールプレイングゲームをやっているみたいな感じ。このお客さんをどう口説こうかな。そうだ、アイテムをゲットしよう、『プレゼント』か『飲み会をセッティング』、どっちにしようかな、どっちを先にすれば次進めるかな、って。だから営業の仕事自体にストレスは、ない!」

 営業の話になる度にS氏のトークは、開けたてのコーラの泡のように勢いよく弾けるのでした。