サードプレイスになるお店の探し方

 「大掃除はしないけど、モヤモヤはマメにうまいものを食べに行って掃き出してますね。旨いものを食べれば、大抵の嫌なことは忘れられるから」

 S氏の言う通り、美味しいものの力は計り知れない。

 思い浮かんだのは、ウィーン会議で祖国の危機を救った、フランスの外交官タレーラン。ナポレオンの引き起こしたヨーロッパ大混乱の後始末を話し合う場で、かねてより「美味しいものが人を妥協的にする」ことに気付いていたタレーランは、「外交文書よりキャセロール」とばかりにひたすらご馳走でもてなして、思惑通りに事を運んだと言われている。

 …… まあ、そこまで大仰なお話でなくとも、美味しいものを食べれば自ずと笑顔になり、心にゆとりが生まれるのは交渉事とは無縁の自分にも実感できる。つまり、美味しいものから得られるチャージ力、リセット力には、相当のものがあるのだ! S氏の話に大きく頷く己。

 「ランチで気に入ったお店は夜も行ってみる。例えば、神楽坂の3軒は夜にも行って好きになった」。こうして気に入った店はリピート、特に気に入った店が、自宅でも会社でもない、自分自身を解放できるサードプレイス、復活の場所となるという。

 ところで、これだけ贔屓の店があるのに、新規開拓をすることもあるというのだが、……それって、ただの食べ歩きじゃないの!?

 怪訝な顔をするイトウにS氏は言う。

 「例えば四谷の寿司店『Nがみ』の場合ですけど、自分はいつでも寿司が食べたいわけでもないし、食べたくて行ってみたらその日は客が多く来た後で、寿司ネタが殆ど切れてしまっていて、お店の人が申し訳なさそうにしていることもある。そういうときは店の人に気を遣わせない程度のものをちょっと頼んで、外で呑み直す。なんせ、呑もうと思った日は、何が何でも呑んで帰りたい。それで自分がサードプレイスの準候補にしている店に行ったり、新規開拓をすることになる」

 と、ここでS氏はキランと眼を光らせて、話を続けた。

 「ふらっと入ったお店では、まずそこのおすすめっぽいものを頼みます。細かく言うと、お刺身などの素材系&煮物やポテサラなどの手をかけたものの両方。偉そうなことを言えば、いい素材を使っているか、料理の方向性はどうか。そこで、店のレベルが分かるかな、と」

 S氏、なかなかうるさい(笑)。だからこそ、彼にサードプレイスとして選ばれた「Nがみ」はいいお店なのだろう。それでさらに質問。

 「ちなみに『Nがみ』ではどんなネタを頼みますか?」
 「好きなのは白身、光り物、貝類でしょうか。安い店ではないけど、出て来るものにしたら安い。例えば貝類ならむきたてを握ってくれて」

 それを聞いて、おなかが、ぐう、と鳴りました。

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