仕事中だからこそ、息抜きが楽しめる……ん?

 仕事の憂さを断ち切るには、仕事から離れることが肝心。突発的に巻き起こるニュースに、二晩をほぼ徹夜で番組にかかずらうこともあるN氏は、多忙な中、時間を見つけてサードプレイスで仕事を忘れ、効率よくリフレッシュして、次なる戦いに備えているのだろう。

 「羽田空港国際線ターミナルに行くんだったら、おすすめはプラネタリウムのあるカフェ。だけど、ボクは飛行機の行方を見るのに忙しくてそれどころではないんです。掲示板を見ると、これから日本を発つ飛行機が、その前はどこから来たのかも、気になって仕方ない。……って、仕事しに来ているはずなんですけどねえ(笑)」

 飛行機の離発着に夢中になるあまり、度々仕事が中断されるのを困ったように、嬉しそうに話すN氏の様子から思ったこと。つまる所、「仕事」はN氏自身への言い訳かつ、お楽しみを増幅させるエッセンスになっているのでは?

 「仕事をしに行く」ことが、国際線ターミナルに来る口実になっていて、「仕事をしている」と思うことが、自分を律していると己に言い聞かせる根拠になり、「仕事中」であることで、息抜きがより楽しめている……ように、見える。

 建前がどうであれ、仕事が手に付かないくらいに自分を解放できているのなら、N氏にとって羽田空港国際線ターミナルはサードプレイス本来の機能をしっかり果していることになる。復活の呪文が、効き過ぎるくらいに効いている、ということか。

 自分が羽田空港国際線ターミナルに行ったらどうするかな。 展望デッキには必ず行こう。外の風に吹かれて、待機中の飛行機を眺めよう。N氏のようなマニアックな発見はできなくても、ただ旅客機を見るだけでも心が弾む。自国の飛行機を見れば、これが世界を飛び回っているのかと思うだけで誇らしい気持ちになるし、外国の旅客機の胴体部分や垂直尾翼に描かれた、見知らぬ国の意匠や綴りは異国情緒を掻き立てる。外国がすぐそこにあるのを感じて旅気分に浸ろう。

 出発ロビーの凛とした、緊張感の漂う空気もいい。椅子に座って、行く人、来る人を眺めれば、ここを通過点に違う世界へと旅立つ人たちの背景もうっすら見えて来る。それぞれが、それぞれの目的のために集う場所では、小さなことに囚われて動き出せずにいた自分に気付いたり、何でもいいから一歩を踏み出そうって気持ちにさせてもらえる気がする。

 ……と、あれこれ思い巡らせている間も、N氏のオタク話は止まらない。

 「ちなみにボーイング777は好事家の間では“トリプル”って呼ばれているんです。この、ボクがマークしている件のパリ行きの深夜便で乗った飛行機ですけど、このときの旅行も乗り物オタク旅を計画してましてね。パリでは『ル・ブルジェ航空宇宙博物館』を見てきました。旅客機や戦闘機、ロケットなどが展示してあって、楽しかったですよ。他は、ストラスブールからスイスの国境近くにあるミュルーズにも行きました。ここには『鉄道博物館』というのがありまして。実は最近、鉄道にもいいところを見つけまして……」

 思わず、言葉を挟んだ。「大丈夫です。結構です。もう充分です!」。

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