一方、利下げによる金利低下は実体経済にプラスの効果をおよぼす前に、投資ファンドのキャリートレードを促すという副作用を生んでしまった。加えて各国の中央銀行が同じ思惑で金利を引き下げるようになると、効果はさほど期待できなくなってしまう。

 マイナス金利政策も、個人的には銀行の経営を圧迫する以上のプラス効果は見込めないと見る。金融機関は最初マイナス金利によって被る損失を自社で吸収しようとするが、やがて持ちこたえられなくなり、最後は手数料の引き上げなどで顧客にしわよせが行く。スイスの金融機関などでは既に起きている。

 マイナス金利を実施する期間が長すぎると、むしろ経済に対する不透明感が高まり、企業が投資を手控えたり、個人がタンス預金を増やしたりと需要喚起とは正反対の状況に陥りかねない。

結局、金融政策だけでは経済刺激が難しいということですか。

ターナー もちろん、どの施策も何も手を打たないよりはましだ。それでも結果を見れば、経済回復には十分な施策とは言えなかった。

まだ打ち手は残されている

 では、再び財政政策を増やすべきだろうか。特に欧州で顕著だが「これ以上の負債は増やせない」という強い反対がおきるため、思い切った財政出動に踏み切る国は少ない。従って、エコノミストの間からは「もはや弾切れ」という声も聞こえてくる。

 しかし、私から見ればまだ施策は残されている。「マネーファイナンス」の導入だ。

いわゆるヘリコプターマネーの導入ですね。

ターナー 提唱者の1人である著名なミルトン・フリードマンの言葉によれば、マネーファイナンスの最大のポイントは国民に現金を配り、家計を直接刺激することにある。

 具体的には、国民の銀行口座に現金を入れたり、あるいは特別な商品券を配布したりする形が考えられるだろう。例えばだが、現金20万円分を国民の銀行口座に振り込んだり、相当額の商品券などを送付したりする。配布した商品券などには有効期限を設定し、使わないと価値を失う仕組みを作ってもいいだろう。

 いずれにしても、マネーファイナンスでは、新たに創造するマネーは中央銀行から与えられる。すなわち、国の実質的な債務を増やさずに済む。

 これは、減税とも異なる。減税は結局、将来の増税という形で需要を先食いしているに過ぎないが、マネーファイナンスの場合はそうした懸念もない。消費は間違いなく増え、物価は上昇する。従来の公共工事などを通じた財政政策よりも、経済への刺激ははるかに直接的だ。

過度に実施すれば、ハイパーインフレを引き起こしかねないという指摘も根強くあります。

ターナー その主張はよく理解している。しかし、私はこの問題は結局、どれだけマネーを供給するかという匙加減だと思っている。運用次第でハイパーインフレのリスクは十分管理できる。

 例えば、日本であれば日銀内にマネーファイナンスを担当する政策委員会を設置し、政府とは独立した形でマネーの供給量を決める。その適切な供給量はいくらかということは明言できないが、然るべき機関が秩序ある金額でマネーファイナンスを実行すれば、物価を目標の2%まで高められる可能性はある。

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