ここ数日の、あなたが出席した会議、とりわけ「議題」を振り返ってほしい。その「議題」は、「?」が付いて疑問文になっているだろうか。
もし、あなたの会社の「議題」が、そうでなければ、要注意だ。色々な会議を見てきたが、もっともバラツキが多いのが「議題」だ。
「中身がある会議」と「どうしようもない会議」の差は、「議題」でもある。その差は、天と地の差と言ってもいい。例えばあなたなら、次の会議に「どんな議題」で臨むだろうか?
人命が懸かった「会議」が延々続いている。その人命の数は、なんと1万3千人。尊い1万人超の人命は、数十人の会議参加者に委ねられている。責任重大だ(出典:佐々淳行『わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト』文藝春秋)。
1986年(昭和61年)11月21日、伊豆七島の大島三原山が噴火した。島内には1万3千人が閉じ込められている。街に迫りだした溶岩が海中に流入したら一大水蒸気爆発が起こり、1万3千人が吹き飛ばされてしまう。そんな事態になれば、日本国最大級の危機的状況だ。
この未曾有の事態を打破するために冒頭の「会議」が繰り広げられていた。会議参加者は、当時の担当省庁である国土庁と関係省庁の役人だ。
夕方から始まった会議は延々と続き、官邸との連絡が遮断されている。その間、刻一刻と危険は島民に迫りつつある。一刻の猶予も許されない状況だ。
堪りかねた後藤田官房長官が会議の議題を調べさせたところ、その議題に絶句した。
あきれた会議の議題はこうだ。
- [議題1]災害対策本部の名称(をどうするか)
- 大島災害対策本部か、三原山噴火対策本部か
- [議題2](発生年次は)元号を使うか、西暦にするか
- 昭和61年とするか、西暦1986年とするか
書籍『
ムダゼロ会議術』では、成果の上がる会議の開き方、進め方をまとめている
官邸の使いが会議参加者に「なんでそんなことを」とあきれながら質すと、万が一、昭和天皇が高齢のため、元号は変わるかもしれない、いや西暦は前例がないからと延々議論していたとのこと。とんだ笑い話だ。
「枝」を論ぜず、「幹」をつかまえているか?
溶岩が島民に迫り、大惨事になるかもしれない危険な中で、島民をいかに避難させるか、という本質的な「幹」の議題ではなく、どうでもいい「枝」の議論に時間を費やしていたのだ。
私が会議術の講座で受講生にこの話をすると、役人の議題のところで失笑がもれる。確かに、「幹」を論ぜず、「枝」に終始する会議は、滑稽そのものだ。そこで、受講者の失笑が収まるのを待って、語気強くこのように斬り込んでみる。
「しかし、この話、笑えますかね。皆さんもこんな会議していませんか。似たような会議、していませんか?」
受講者から失笑が消え、たちまち凍り付くのは、会社の会議でも「幹」から離れ、「枝」の議論を繰り返している経験があるからだ。
三原山の後談に戻すと、国土庁の「枝」の会議が終わる深夜には1万3千人を超える島民達の避難が終わっていた。「枝」を一切無視し、「幹」の論点で動いた中曽根総理、後藤田官房長官、佐々氏が、役人たちの会議より早く行動したからだ。
適切な議題設定は、意外と難しい。三原山の危機的状況下、あなたなら、その会議で何を論じるだろうか。
会議術講座の受講者に向けて、三原山危機を前に会議議題を設定してもらうと、「どうやったら即座に人命を救助できるだろうか?」という議題や論点が出てくる。
仮に、そんな議題しか設定できなければ、会議は一向に具体的にならない。具体的とは、例えばこんな議題だ。
「1万3千人を運ぶには船は何隻必要か?」
「それらの船はどこにいるか?」
「全員収容するまでに、最短何時間かかるか?」
「もっとも近くの船はどこか?」
「どこの誰に頼めば、船を動かせられるか?」
「港に押しかける島民を混乱させない救出ルールはどうするか?」
この状況下なら、最低でも以上の複数議題を瞬間設定し、矢継ぎ早に答えを出さなければならない。無論、和暦か西暦かの年号を論じている場合ではない。
そう会議は、常に以下の連続なのである。
議題(問い)→答え
つまり、適切な「議題(問い)」が設定できなければ、適切な「答え」が出てこない。 そう「短く濃い“筋肉質”会議」で最重要なのは、議題設定なのだ。三原山危機対策会議でどれだけ時間をかけても適切な議題設定がなければ、人命救助という解決方法に至らないのと同じだ。
「会議」が始まる前の「議題」いかんで、「うまくいく会議」と「うまくいかない会議」の行方は決まってくる。
では、「枝」ではない、「幹」の議題をつかまえるにはどうすればいいのだろうか。
今回は簡単に、4つのやり方を紹介しよう。
会議の議題が、枝にそれないためには?
その①:「?」を付けて、疑問文化する
会議の質、つまり「長く薄い会議」か「短く濃い会議」かは、議題で決まる。そこで、重要になるのが、どうでもいい「枝」の議題ではなく、いかに本質的な「幹」の議題をつかまえるかだ。
言うのはカンタンだが、これが難しい。これまでの会議を点検してみてほしい。こんな状況は思い当たらないだろうか。
- 議題から逸れた内容ばかり論じてしまう
- 議題を論じているが、どうでもいい結論に至る
上のどちらも「枝」の議題をつかんでしまっている。何としても「幹」の議題をつかまえよう。
ここで、当たり前すぎる「会議」の大前提を振り返りたい。先述した通り、「会議」とは、以下の連続だ。
議題(問い)→答え
議題があって、その答えを論じるのが、「会議」なのである。
ということは、議題は必ず「問い」でなければならない。
「問い」ということは、「疑問文」でなければならない。
「疑問文」ということは、末尾に疑問符である「?」がついていなければならない。
そこで、あなたの会社の議題を見直してみてほしい。その議題の末尾に疑問符である「?」はついているだろうか。その議題の末尾が、「?について」なんていう議題になっていないだろうか。
議題は、論じる点。つまり、論点だ。論点とは、「問い」である。
一刻を争う災害時に、「和暦か西暦のどちらにすべきか?」という論点か、「島民全員を救出するために、何隻の船をどこから集めればいいのか?」で論じ出すかでは、その答え(会議)の内容に大きな差が出てきてしまうのだ。
「幹」をつかむために、まずは必ず疑問文にしよう。さらに、具体的にキレのある論点の出し方について、3つダイジェスト紹介していこう。
その②:2つを比較する
「比較」すると「幹」の議題がつかまえやすくなる。比較の公式は次の通り。引き算だ。
[比較の公式]
A−B=C(差分)
「?について」の議題だと、会議の空気自体がぼんやりしてしまう。「(比較して)?なのか?」などの疑問文化を行い、答えを出すことを心がけよう。
続いて、3つ目の「幹」の議題をつかまえるポイントを解説していく。
その③:数字を入れる
我々は、普段買い物をする中で、まず値札という「数字」を見るクセがついている。子供の成績でもゴルフのスコアでも、まず注目するのが「数字」だ。「数字」は、冷徹で具体的で何よりも説得力がある。
「議題」に「数字」を入れるとぐっと締まってくる。論じる内容が、「濃く具体的」になるのだ。
「数字」がある論点は、力が入りやすい。オリンピック開催の論点はいつだって、メダルの「数」はいくつか? だろう。
私たちは、物心が付いた時から大人になるまで、テストの点数や運動会徒競走の順位、学力偏差値、毎月の給与額、ゴルフのスコアなどがあるとムキになる。
そう、数字を使うことで「ムキになる」という引力を上手に利用し、議題化してみよう。「濃い会議」に近づくことは間違いない。キレのある「議題(論点)」は、場数をこなし、「濃い会議」を経験することで、研ぎ澄まされてくる。
議題(論点)は、具体的になればなるほど、キレが出てくる。具体的とは2つを指す。
1つは、「数字」。もう1つは、「名前」だ。
「数字」も「名前」も口にする、文字にすると責任が伴ってくる。だからこそ、両者を議題に入れると、俄然、具体的になってくるのだ。
論理的に議題を設定するにはどうすればいい?
その④:What→Why→Howで問う
「幹」の議題をつかまえるための最後4つ目は、英語の5W1Hを使う議題の作り方だ。説明するまでもないかもしれないが、5W1Hを改めて記しておこう。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どうやって)
このうち、What(何を)、Why(なぜ)、How(どうやって)を使うと議題が論理的になってくる。
論理的プロセスを使っている最も身近な職種は「医者」だ。
医者は、お腹がいたいと言っても、すぐに処方してくれない。
頭が痛いと訴えても、すぐに開頭手術することは絶対にない。
なぜなら、彼らは論理的プロセスを踏む。踏まなければ人命に関わるからだ。彼らは、おしなべて以下の論理的プロセスを徹底している。
- 何が問題か(What)?→患者からヒアリングする
- なぜ問題か(Why)?→怪しいと思う症状をレントゲンなどで裏付ける
- ではどうするか(How)?→症状を改善する処方を絞り込み、実行する
医学は特殊技術で特別な勉強をしなければビジネスパーソンに再現性はないが、この論理的プロセスはシンプルなので、会議術に大いに再現できる。
■What、Why、Howの議題設定
状況 | 疑問符と議題例 | ステージ |
何が問題か分からない
共有されていない |
What(何が)
(例)その問題は何か? その問題で不利益をこうむるのは何か? |
問題特定 ステージ |
問題は特定できたが
なぜそれが起こったのか
要因が解明されていない |
Why(なぜ)
(例)なぜその問題が発生したか? |
要因解明 ステージ |
要因解明されたが
解決や対策がない |
How(どうしたら)
(例)原因を解決するには、どうすればいいのか? |
対策立案 ステージ |
会議の状況を見極めて、What、Why、Howを議題に振り分けていけばいい。
会議しなければならない状況を上図の順(問題特定→要因解明→対策立案)で点検していけばいい。
さあ、会議前の準備はこれで終了だ。いよいよ、次回からは、会議に突入していこう。
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