
11月14日、日本からアメリカに赴任していた機械エンジニアのヨネ(米村さん)が、年内に日本に帰還することが決まった。これまで1年間以上、アメリカ法人の立ち上げを一緒にやってきた仲間だ。毎日ご飯を一緒に食べ、あらゆるミーティングと、あらゆる出張と、あらゆる現場に一緒に足を運んできた(何を隠そう、僕とラースさんのツーショットを毎回撮ってくれたのは彼なのだ)。
毎朝一緒にスターバックスでコーヒーを飲み、日本人として、この地アメリカで一体何ができるか、日本のために僕たちは何をしなければならないのかを語り合ったその彼が、一時帰国ではなく、永久に日本に帰国するというのだ。
いったい、何が起こったのだろうか。
“ミニCTO”ヨネに差す影
話はそれより2週間前に遡る。彼は新しく製造されたロボットの出荷テストを見守るため、一時的に日本に帰国しており、多忙な中でも情熱を持って業務をこなしているようだった。
日々彼からは日本の現状に関する詳細なレポートが送られてくる。これまでメール等のビジネス文章を手直ししてきただけあって、どの文章もよく書けていた。僕は彼に、「ずいぶんと内容の濃い日々を送っているようだね。最近の活躍は、さながらミニCTOといったところだね」と返事を書いていたほどなのだ。
日本への一時帰国を終えた彼を迎えるため、僕はいつものようにサンノゼ国際空港まで車を走らせた。太陽眩しく、楽観主義が広く受け入れられている都市、サンノゼ。しかし、国際線の到着ゲートに姿を現した彼の表情には、不思議と何か陰のようなものが見えた気がした。
経費節減に努めてくれていた彼は、成田空港からサンノゼへの直行便ではなく、ロサンゼルス経由でサンノゼ入りすることが多かったため、その意味で、合計10数時間にも及ぶフライトが、彼を疲労困ぱいさせているのだろうと思っていた。車を走らせながら、「どうだった、日本は? サンノゼは、相変わらず天気が良くて、気持ち良いだろう」と話しかけた僕に、実直な彼はとても申し訳なさそうな表情をしながら、「いやあ、今回の一時帰国は、いつもより、ちょっと疲れました…」と言った。
その日、僕は彼の表情に見えた気がした陰の正体を突き止めることはなかった。そして、毎日の忙しさにかまけ、やがてそんなこと最初から気がつかなかったかのように、日々を過ごしていった。日本からはまた別のソフトウェアのエンジニアがサンノゼを訪問し、社内では、水道配管の解析ソフトウェアに関する議論を集中して行っていた頃で、立ち止まるには何か明確な理由が必要だとばかり、僕は前だけを見つめて物事を進めていたのだ。
しかし、彼が乗った飛行機がサンノゼに到着したこの日から、エンジニアである彼の仕事からは、不思議と、いつもの情熱のようなものが感じられなくなってしまっていた。ふと、彼の姿が「風にゆらゆらと舞う、糸の切れた凧(たこ)」のように感じることがあったのだ。
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