所有権の4分の1は、乗組員に

 事実として、フラクタの離職率は極めて低い。しかし、ジョンさんはあくまで、アメリカ全土でもとりわけ高いと言われるサンフランシスコ・ベイエリアの平均給与にこだわる姿勢を貫いてくる。結局、1カ月半もこうした議論に付き合いながら、アメリカ人というのが一体何を考えているのかを、僕は見つめ続けた。

 やがて見えてきたのは、日本とアメリカの文化的な背景の違いとも言うべきことだった。つまりアメリカでは「年齢に関わらず、優秀な人(特に学歴やスキルが高い人)には平均よりも高い給料が支払われるべきである」という大前提が広く行き渡っており、また会社で働く個人個人も、「他の会社のほうが給料を含めた待遇が良ければ、すぐに他の会社に移るということに、あまり躊躇(ちゅうちょ)がない」ということだ。

 このあたりは、何でも平均化されている日本という国を長く生きた人間としては、最初なかなか理解しづらいことだった。つまり根本的に、アメリカ人の考え方は日本人と違うのだ。とはいえ、CEOとしての僕には僕独自の考え方というものがあり、さらにそれは僕が日本で生まれたという事実とは関係のない部分もあるだろう。

 一方で僕たちは、アメリカ、特にシリコンバレーという非常に人材獲得競争が激しいエリアに居を構えている。給与に関しては、郷(アメリカ)に入っては郷(アメリカ)に従えの部分を見つめつつも、また一方で僕がどんな会社を経営したいかという部分も大切にしたい。こうしたところを頭の中でしっかりと切り分けながら、できるだけ良い人を採用し、長く会社にいてもらうために、会社としてやれることを考えなければならない。

 大切なのは、多少現在の給料がデコボコしていようと、成功したときにその分け前がフェアに分配されることであり、その意味で、ベンチャー企業の成功報酬の大半が株式の売却益(キャピタルゲイン)であるという事実を勘案し、僕は従業員向けのストック・オプション(普通株式を安価に購入できる権利)を、会社全部の所有権換算(難しい言葉で言うと「完全希薄化ベース」)で25%分も用意して、それがどんな役職の誰であれ、フラクタの従業員には必ず会社の所有権、つまり株式を安価に購入する権利を配ることにしたのだ。

 僕は最初から、会社の所有権の4分の1を、従業員に渡すことを決めている。このあたり、「ベンチャー企業で、やりがいのある仕事を!」などと謳(うた)い、従業員にストック・オプション(会社の所有権である普通株式を安価に購入する権利)も配らずに、不毛な搾取を繰り返す会社とは、およそ考え方が違うと言えるだろう。

 従業員の貢献無くして会社の成功は無い。資金繰りが十分ではなく、平均の給料が配れないことだってあるだろう。ただ、それも含めて、従業員は同じ船に乗っているのであり、また従業員はその船の権利(株券)をきちんと握りしめている。成功するときも、失敗するときも、僕たちはいつもいつも一緒なのだ。僕はジョンさんとの喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を通じて、多くのことを学んだ気がした。

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