グワーンと揺れ、健全に対立し、飛び立つ

 11月5日の夕方、僕がレッドウッドシティのオフィスで事務仕事を片付けていると、ふとした拍子に、あることに気づいた。不思議なくらい、オフィスが騒がしい気がしたのだ。サマータイムが前週の週末には終了したことから、日中は陽射しが眩しいサンフランシスコ・ベイエリアとはいえ、17時頃になると、もう外は真っ暗になる。アメリカでは、18時くらいになると従業員は思い思いに帰宅の途につきはじめる(帰宅時間は人によって、本当にまちまちだ)。創業初期のベンチャーであれば話は違うが、フラクタも2015年のアメリカ進出から3年半が経過して、新しい従業員も増えてきたことから、持続可能な仕事のペースに落ち着きつつあった。

 そんな夕方、18時になっても、オフィスが騒がしく、なんだかみんながせわしなく議論をしている。誰も家に帰る気配が無い。これといって、その日、僕から何かハッパをかけたわけでもなければ、何か特別な期限があったわけでも無いというのに、とりわけエンジニアリングチームの皆が、思い思いにエネルギーを放出させながら、オフィス全体が大きなスピーカーのように、グワングワンと音を鳴らしている感じがしたのだ。グワーン、グワーンと、音が聞こえ、オフィス全体がそのリズムに合わせて揺れている感じがした、というのが僕の正直な感想だ。

 僕は自分の席に座りながら、うっとりとした表情でその景色を眺め、その音に耳を傾けていた。今では、製品・エンジニアリングに関しては、ジョエルに大体のことは任せている。だから、エンジニアリングチームが気ぜわしく働いて、皆が協調して活動している姿を見て、僕は嬉しかった。少しずつ、少しずつではあるが、会社というものが、まるで日々目まぐるしい勢いで成長する子供のように、どんどんと形を変え、大きくなっていくのだ。自分が面倒を見なければ、何もできないと思っていた子供に、少しずつ「自我」が芽生え、自律的に何かを考えるようになっていく。そんな気がした。フラクタは、従業員だけで約25人。アドバイザーや社外取締役などを含めると約30人近い所帯になっていた。

 最近では、営業・マーケティングの責任者であるダグと、製品・エンジニアリングの責任者であるジョエルとの間で、電話口を通して、毎朝のように激しいやり取りが行われるようになった。これ(つまり営業サイドと技術サイドの間で、衝突が起こること)は会社のサイズが大きくなると、どんな企業でも必ず起こる現象であり、それが健全な衝突である限り(営業サイドは、製品に関して、できるだけ早く、また色々な機能が欲しいと思い、技術サイドは、要件をきちんと定義してから開発したいと思うものだ。当然のことながら、そこには健全な衝突が発生する)、何も問題は無い。

 僕は、こうした2人の間に横たわる「思惑の違い」を解消するために、時間を使うことが多くなった。最近では、直接僕が営業先に出掛けていって売るのではなく、ダグのチームに任せて製品を売ってもらう。直接僕が製品の機能を決めるのではなく、ジョエルや吉川君のチームに任せて仕様を決め、製品を作り込んでもらう。色んな人から上がってきた情報を整理しながら、方向性を整えていくということに、僕は多くの時間を使うようになり、それは寂しくもありながら、また嬉しくもあったのだ。フラクタのレッドウッドシティオフィス、とりわけ製品・エンジニアリングのチームが、僕の手を離れ、飛び立とうとしていた。

エンジニアリングチームが、ある閾値を超えたなと思った日の写真です
エンジニアリングチームが、ある閾値を超えたなと思った日の写真です

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