隣の「別の生き物」の生態を掴め

 10月30日、僕はラースさんと一緒に、カリフォルニア州モントレーのホテルで開催された展示会の会場にいた。オフィスのあるレッドウッドシティから南に2時間ほど車で走ると、海沿いの街モントレーが現れる。ナパバレーと並んで、カリフォルニア・ワインの産地として名高いこのモントレーで、今回はカリフォルニア州の民営水道会社が集まるカンファレンスがあった。10月29日から31日まで、合計3日間開催されるカンファレンスで、ラースさんはいつもの通り初日から参加していた。僕は中日(なかび)にあたる30日の朝、車でモントレーに到着し、ラースさんと合流したのだ。

 カリフォルニアで行われるカンファレンスにしては珍しく、参加者の人たちの多くが、ジーンズやチノパンツではなく、スーツを着て参加していた。ところがそこに、一人だけ黒いジーンズに、フリース素材の上着を来て会場をウロウロしている男の人がいる。もちろんラースさんだ。相変わらず、自分のスタイルを貫き続け、「本質的な知性と、表面的な服装には全く関係性が無い」とも言いたげなその姿は、ある意味で非常に頼もしい。

 僕は元気に声をかけた。

 「ラースさん、モントレーは良いところだね。素晴らしい天気だよ!」

 「やあ、加藤さん、これから面白いセッションが始まるところだ。今回のカンファレンスは小さなものだけど、こないだ話をしたように、新しいビジネスモデルを作るにあたって、投資家から投資を受けている民営水道会社の人間とたくさん話すことができるから、何かの参考になるはずだ」

モントレーのカンファレンスです
モントレーのカンファレンスです
天気も良く、いい街です
天気も良く、いい街です

 僕たちはセッション(何らかのテーマに沿って講演のセッションが行われる。その回は、「持続可能な水道料金の設定」についての講演だった)が終わると、そのまま流れに乗って、ランチの会場へと向かった。

 僕とラースさんが座ったランチ・テーブルには、色んな種類の人たちが座っていた。特に面白かったのは、そこで出会った2人の夫婦だ。この夫婦は、旦那さんのご両親から小さな水道会社の経営権を譲り受け、しかしその水道会社がたった2マイル(約3キロメートル)の上水道配管しか持っていないことから、この経営権から得られる利益だけでは生活をしていくことができずに、お互い副業を持ちながら水道会社を経営している(別の仕事が副業なのか、水道会社の経営が副業なのかは分からない)。

 僕は、僕の右隣りに座った、その水道会社の奥さんに、色んな質問をし、そこでも色んなことを学んだ。毎年入ってくる水道料金によって、水道配管や井戸の整備を行っていること。水道配管や井戸の整備などに関して、入ってくる水道料金によってこれを賄(まかな)えない場合には、カリフォルニア州が運営する協議会に掛け合って、水道料金を上げる手続きに入ること。民営水道会社で利益を積み増すためには、次々と隣接する水道会社を買収していく方法が正しいと考えられていること。ただし、彼らが経営権を保有する水道会社は、隣接する大手水道会社から「旨味(うまみ)がない」と評価されて取り残されてしまったこと。

 公営水道会社(水道公社)と、民営水道会社のインセンティブ構造の違いは大きく、こうした一つひとつの情報が、僕やラースさんの脳みそを刺激する。僕たちはこの他、民営水道会社を経営する弁護士、また民営水道会社にお金を貸し付ける銀行家など、次々と、こうした「民営」水道会社を取り巻くプレイヤーたちからヒアリングを続け、彼女たち彼らの思惑を知った。

 僕たちはセッションごとに1階になったり2階になったりする会場を、階段を上り下りして移動しながら、そのたびにこんな言葉を交わし続けた。

 「もう少しでパズルが解けそうだ。これを解くとものすごいお金になると思うところまで来ているけど、どうしても最後、よく分からない部分があって、まだ解けないね」

 「加藤さん、その通りだ。かなり近いところまで来ている。水道公社に対してソフトウェアを売ってきた。民営になると、急に思惑に変化がある。彼らはまた別の生き物みたいだ」

 「来年までには、この問題を解きたいところだよ」

 「加藤さん、今年の年末までだよ!」

 僕たちはまた、問題を解くことを楽しんでいた。

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