本気の「社内公募」「海外派遣」とは
この日、とても嬉しかったのは、眩しいばかりの希望に溢れた2人の若者が展示ブースを訪問してくれたことだ。2人の名前は、堤(つつみ)君と、ガニー。栗田工業の公募制度で、フラクタに派遣されることになった未来ある2人の若者だ。
栗田工業3000人の従業員の中から、完全公募制で、あらゆる条件を外して、僕が直接オンライン面接をやって、この2人を選抜した。人事部の恣意的な評価、学歴や職歴、性別、年次など一切関係無しという条件で、全社に告知を行ってもらい、上がってきたアプリケーション(応募書類)を僕が端から端まで目を通して、ヒロと手分けして面接を行ってきた。僕の独断と偏見による圧倒的な評価を受けてカリフォルニア行きを勝ち取ったのが、この2人ということなのだ。
大手企業で、こうした海外派遣制度が行われると、だいたいにおいて、人事部に可愛がられるキャラクターの人間が選抜されてしまう。しかし、残念ながらこうした人間はアメリカのベンチャー企業では役に立たない。フェアに見て、優良企業だと思う栗田工業にとってもそれは同じことだろうと僕は思った(「良い意味で疑った」と言ったほうが正確かも知れない)。どんなに優良な企業であろうと、その規模が大きくなれば、すべての社内政治から逃れることはできない。人間というものが持つ本質的な「弱さ」を見つめるとき、残念ながら上司のケツを舐める部下が出世しやすい傾向にあることは、大企業という閉ざされた世界観の中では、ある意味で当然の帰結なのだ。
翻って、大企業のイノベーションを考える上でのポイントは、その程度をどれくらいに抑えられるかという問題に帰結する。こうした傾向を全体として把握しつつ、意図的に変わった人たち、反骨の獅子たちを上に引き上げる社長や役員といった人たちがいれば、継続的にイノベーションを取り込むことができる結果として、大企業の長期的生存可能性は高まる。念のため言っておくが、役員の顔ぶれを見る限り、栗田工業はこうした「ラジカル化」のプロセスに一部成功している。またこれも念のため言っておくが、いわゆる大手上場企業の役員で「俺は社内では変わっているほう」「若いときから生意気だった」などと言っている人間に限って、上司のケツを必死で舐めてすりあがってきた、イノベーションの戦場では役に立たない人間であることが多い。
しかし、カリフォルニアで僕をヨイショしてくれたところで、嬉しくもなんともないし、何よりベンチャーの仕事はそんなことでは前に進まないのだ。ここシリコンバレーでは、CEOである僕をヨイショする必要が無い。CEOが間違っていると思ったときには、そう言えば良い。一方で、戦場では「議論のための議論」に時間を使っていられないこともまた事実だ。僕がコマンド(指示)を出したら、0.1秒後には、身体が動いていなければならない。そのコマンドが合っているか合っていないか、それはその先に行ってみなければ分からない場合が多い。何しろ僕たちは、まだ誰もやったことが無いこと、新しいことをやっているのだから。残念ながら、信じるしかないのだ。
戦場ではお互いが背中合わせでライフルを持って敵に向かい、互いが互いに命を預けなければならない。だからこそ、この公募制度の設計自体をストレートにする必要があった。栗田工業と何度も話し合いを持ち、設計自体に納得がいった段階で、僕たちは一気に公募に踏み切った。この2人が、祝日だった月曜日、東京ビッグサイトに足を運んでくれたのだ。この2人の人柄についてはまた触れたいが、僕はこうして情熱に溢れた人たちの活躍に、期待している。
翌18日は、祝日明けの火曜日にもかかわらず、フラクタの展示ブースは多くの訪問客で溢れた。相変わらず、配管メーカーであるクボタの末永さんと現地で会い、情報交換をしつつ、再会を喜んだ。
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