その日の夜だ。その老婦人の娘さんから、僕に電話があった。アメリカで生まれたのだろうに、日本語が大変流暢なその娘さんは、うちの母が大変お世話になりましたと、何度も何度も丁重にお礼の言葉を述べた。

 「加藤さんは、こちらでどんなことをやっておられるのですか?」
 「えっと、僕はレッドウッドシティで、フラクタという人工知能のソフトウェア会社を経営していまして……」
 「そうですか。うちの息子が今カリフォルニア大学バークレー校で、数学とコンピュータ・サイエンスを専攻しているのですが……、何かお役に立てることはありますか?」

 話を聞いて、とても不思議な人だなとは思ったが、その息子さんとフラクタの間に何かの接点があるとすれば、ソフトウェアという部分だけだ。「そうですね、息子さんがとても優秀であれば、何らかのソフトウェア・コードが書けるかも知れませんし、卒業後の進路としても、うちは面白い会社だと思いますよ」。僕は何の気なしにそう答えた。

学歴・職歴・住所不問、優秀なエンジニア求む

 読者の皆さんはもうお分かりのことだろう。そう、その息子さんこそが、フラクタの夏季インターン生となった、エイモンだったのだ。これが全ての始まりだった。なんだか不思議な一日だったが、僕はここアメリカの地で一人の日本人を助けることができて、少し嬉しかった。

 しばらくして、その老婦人の娘さんから僕の携帯電話宛てに、一通のメッセージが送られてきた。「息子を連れて、加藤さんの会社までご挨拶に伺いたいのですが」。律儀な人だなと思い、もちろん二つ返事でOKして、その数日後、老婦人と娘さん、そしてエイモン(つまり三世代全員)がフラクタにやってきたというわけだ。

 早速CTOの吉川君にエイモンを紹介し、2人でしばらくディスカッションをしてもらうと、吉川君が興奮して僕のところに戻ってきた。

 「加藤さん、エイモンは、めちゃくちゃ優秀な学生です。とても大学生とは思えないほど、ソフトウェアのことをよく分かっていますよ。彼が学生じゃなかったら、今日から採用したいくらいです」

 不思議なことはあるもんだなと、お母さんに話をして、僕たちは夏季インターン生として、エイモンを受け入れることになったのだ。インターン期間中、エイモンの活躍は実に目覚ましいものだった。大学が夏季休暇の間、5月下旬から8月下旬まで、3ヶ月近くエイモンはフラクタの一員として働いてくれたのだが、フラクタが予測する上水道配管の劣化、今後5年間で配管が破損する確率モデルの精度向上を、数学的により確からしくしてくれた。すごい若者がいるものだなと思ったし、何より僕はエイモンという、不思議な雰囲気を持つ若者(たまに一人でホワイトボードに向かってペンを持ち、そのホワイトボードに話しかけているときがある。パソコンのディスプレイに向けてひとり言を言い、よく笑っている。高校のときは、なぜかアフロヘアーだった。挙げればキリがないが、とにかく最高に変わっていて、つまり僕はこういう人間が大好きなのだ)に会えて良かったなと思った。

 余談だが、フラクタではいつも優秀なソフトウェアエンジニアを募集している。機械学習(人工知能)分野に強いエンジニアの人がいたら、学歴・職歴不問なので、是非フラクタの門を叩いて欲しい。「エンジニア」なんて高等な名前じゃなくても良い。そういう枠組みに収まらない人だって良い。学校なんて出てなくて良い。日本から働いたって良い。アメリカに来たって良い。日本のサラリーマン社会に適合できない、日本の政治は茶番だと気づいてしまったが周りの人には内緒にしている、男尊女卑の日本社会では吸っている空気が美味くない、何でもいいが、僕はそういう隠れたる天才たちの話し相手くらいにはなれるかも知れない。興味があれば、「careers@fracta.ai」までメールを送って欲しい。