夏季インターン生、エイモン

 話は前後するが、日本で言うところの「お盆」の真っ最中、8月17日には、フラクタの夏季インターン生として、いくつかのソフトウェア・プログラムを書いてくれていたエイモンの最終日を迎え、エンジニアリングチームと一緒に卒業パーティーを行った。

 カリフォルニア大学バークレー校の、数学科とコンピュータ・サイエンス学科の複専攻(ダブル・メジャー)の4年生になったばかりのエイモンと僕の出会いは、何とも僕らしく、また大変な偶然に満ち満ちたものだった。

右から2番目がエイモンです。インターンとして、夏に頑張ってくれました

 話は、今年の頭、僕が週末に自宅近くのスーパーマーケットに買い物に行ったときに遡(さかのぼ)る。僕が買い物を終え、駐車場でカートを押して歩いていると、白髪で背が曲がった、日本人と思しき老婦人が、明らかに困った様子で立ち尽くしていた。傍目(はため)にも、何か問題があることが見て取れたので、僕は彼女に近づいていった。相手は間違いなく日本人なのだ。何かがあったら助けなければいけない。

 「あの……」僕と目が合うと、老婦人のほうが先に僕に声をかけた。「どうかしましたか?」僕はすかさず返答する。「あの……すいません、車の中にカギを入れたまま、ドアを閉めてしまったの。それで、ドアが開かなくなってしまって、中に……入れないの」。

 スーパーマーケットで買ったと思われる大量の食料品が入ったショッピングカートが車の脇に置かれ、一方で車のドアを開けることができず、彼女は困っていたのだ。見ればトヨタの車だったので、僕は近くにあるトヨタのディーラーに「車内にカギを置き忘れてしまった人がいるので、助ける方法はありませんか?」と電話をかけてあげた。しかし、こういう時に限って、なかなか上手くはいかないもので、このディーラーでは対応できないと言う。

 困ったなと思ったが、いくつか会話をしているうちに、彼女はスーパーマーケットから車で10分ほど離れたところに自宅があり、その自宅にはこの車のスペア・キー(合い鍵)があると言うことが分かった。「じゃあ、僕が自宅まで送ってあげますよ。近くに車を停めてありますから、僕の車に乗ってください」。

 老婦人を彼女の自宅まで送る道々(みちみち)、僕は、彼女がかつて、どうやって日本からアメリカに渡ってきたのかという、とても興味深い話を聞いた。福岡県の炭鉱地帯出身だという彼女が、どうしてここアメリカはカリフォルニアに移り住んだのか、人生は不思議な偶然の連続だなあと、しみじみ思った。学生の頃、夢中になって読んだ、五木寛之の『青春の門(筑豊篇)』の情景が、僕の眼の前に広がった。

 自宅の前で、彼女を車から降ろすと、彼女は僕に丁寧にお辞儀をした。そして、いつかお礼がしたいので、電話番号を教えて欲しいと言う。僕はなんだかよく分からないまま、電話番号だけを残して帰途についた。