8月後半(第4週)は、日本に一時帰国することができた。日本にも、アメリカで発展させたフラクタの技術を普及すべく、いくつかの企業と行政体を回ることが目的だ。

アメリカでは少しずつフラクタの技術、ソフトウェアが使われるようになっている。8月には、テキサス州で最も大きい市の一つが、フラクタのソフトウェアを試験運用することに決めた。カリフォルニア州南部の非常に大きな行政体もフラクタのソフトウェアの試験運用を始めることになった。
毎日毎日、少しずつ営業活動が前進し、ほんの少しずつかも知れないけれど、フラクタの技術が世界を変え始めていた。僕たちのソフトウェアは、水道会社(日本における水道局)が上水道配管を交換しようとする際、最も老朽化が進んでいる箇所(配管)を、一度も地面を掘り返すこと無く言い当てるという、極めて有為なものだ(魔法みたいな話だが、これは魔法ではない。コンピューターだ)。
アメリカでは40%削減、日本でも
基本的な配管のデータ(配管の材質や、敷設年度、直径や配管長、地点データなど)と、フラクタが集めた多くの環境関連データなどを合わせ、コンピューターの機械学習(人工知能)アルゴリズムを駆使することで、どれくらい配管が劣化しているかどうか、どの配管を最初に交換しなければならないのかを高い精度で当てることができる。アメリカでは、上水道配管の更新コストに関し、実に40%も費用を削減できる可能性があるというアルゴリズムの開発に成功したものの、日本の上水道配管に対してこの技術が適用できるかどうかは、やってみなければ分からない。とはいえ、基本的、論理的には必ず同じことができるはずで、加えてアメリカで発展させた手法を日本に移植できる部分もあるので、「まあ何とかなるだろう」という直感が僕にはあった。
日本は地震大国だ。日本では、地震の少ないアメリカのように、上水道配管の寿命が100年持つという感覚は基本的には無く、平均で50年、60年もすれば、交換時期と言われているようだ。配管が経年劣化したことに加え、地震という大きな物理インパクトが加えられることで、配管が破損しやすいためだろう。ただそれでもなお、どこを掘り返してパイプを交換して良いのかということに関して言えば、「(配管を敷設してからの)経過年数」と「(去年までの)漏水履歴」、はたまた「ベテランの勘」によってそれを推定している水道局が多いというのが実態のようだ。
ここにコンピューターの技術を持ち込む。100%客観的かつ、より精度が高い予測が提供できる。ポイントはこの「平均寿命の、誤謬(ごびゅう:間違いのこと)」にある。日本の上水道配管の平均寿命が50年だと言われても、30年で破損する配管もあれば、120年生き残る配管もある(もちろん、実際は200年生き残る配管もあるだろう)。要は配管一本一本の「個体差」が大きいということがポイントで、それをきちんと個体別に言い当てるということに、経済的な価値が宿る。配管の「本当の寿命」は、その配管が敷設された環境によって大きく変わるのだが、その環境要因があまりに複雑に絡み合っているため、これまでは配管の寿命を正しく予測する手法が世の中に存在していなかった。だから、この「平均寿命」という概念を使って上水道配管を交換していくという方法が、現時点で主流になってしまっていることに関しては、致し方ないことだったとも言える。
しかし……だ。今は違う。コンピューターの能力が向上したことによって、あらゆる環境要因を正しく分析することができるようになった。これを使うことによって行政予算をより効率的に使うことができるようになったのだ(何しろ日本における多くの市区町村においても、配管の交換に関する予算規模が追いついていない状況なのだから、予算を「削減する」とは言えないのかも知れない。それ以上に、まずは同じ予算をより「効率的に使える」ことによって、漏水や、周辺の浸水事故を未然に防ぐことができるというメリットを強調すべきだろう。加えて、このソフトウェアの導入によって、雇用は削減されるどころか、現場のスタッフの人たちがより効率的に計画することができるようになり、彼女たち彼らたちは、市民により感謝される機会が増えるということになるはずだ)。
日本にも、志のある会社はある。こういう会社と事業提携をすることによって、日本におけるこの技術の適用可能性について検討すべく、僕たちフラクタは活動を開始していた。連日うだるような暑さの中(一歩あるくだけで、滝のような汗をかく。これは懐かしい感覚だ。僕はこの国、日本という国を愛しているのだ)、この技術の到来を心待ちにする人たちとのミーティングの機会に恵まれ、僕は日本を後にした(日本の各社との事業提携については、ゆくゆくプレスリリースを配信する予定なので、楽しみにしていて欲しい)。


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