赤ペン添削はチーム力アップのため

 そういえば僕は、昔から自分の部下に対して、日本語の書き方についてうるさく言うことが多かった。何でも自由に見えるベンチャー企業にあっても、これは重要なことだ。なぜならスピードを重視するベンチャー企業経営だからこそ、コミュニケーションによる時間ロスは致命的だからだ。「主語がない」「目的語が抜けている」「これだと一文で二つの意味が生まれてしまう」「論理構成がおかしい(前後の文が逆)」などなど。

部下のメールに赤ペン、基礎作りに妥協なし

 この連載を読んでいる読者の人は意外に思うかも知れないが、僕は部下から送られてきたメールについても、文意が取れなければ、プリントアウトして、赤ペンを入れて返す。部下にしてみれば大変なことだろう。大人になってから、とりわけ日本企業の「ぬるま湯」環境で育てば育つほど、「君は、これが本当に日本語だと思うか?」「冗談抜きで、中学校から国語をやり直した方がいい」などと、上司から大声かつ真顔で迫られることなど、無かったに違いないのだから。

 しかし、こうした日々の積み重ねが、たとえベンチャー企業という非常にフレキシブルな組織の中にあっても、力強い基礎を作り上げ、従業員の数が爆発的に増えていった際にも、組織能力の下地としてしっかりと残っていく。だから、僕は一切妥協しない。

 7月のある日、日本からサンノゼに赴任している、エンジニアのヨネ(=米村さん)のメール文面にフィードバックを与え、5回書き直させた。変なことをやらされていると思ったのか、彼は最初、嫌な顔をしていた。

 ところが、フィードバックを受けながら、嫌々5回も文面を書き直して、最初の文章と最後の文章を比べてみると、彼もその価値に気づく。清々しい顔をして、「今まで、こんなこと、誰も教えてくれませんでした」とのこと。あとは、その昔、大野晋さんが書いた『日本語練習帳』など、日本語の上手な書き方に関する本を推薦し、読んできてもらう。だいたいの人が、これで相当マシな日本語を書くようになる。ヨネは実直で真面目なナイスガイ。彼がアメリカから日本に送るレポートは、毎日毎日上手になっている。素晴らしいことだ。

 8月3日、友達の東大教授、稲見昌彦さんがオフィスに遊びにきてくれた。直前に「SIGGRAPH(シーグラフ)」というコンピュータ・グラフィックスに関する世界最大のカンファレンスがカリフォルニア州アナハイムで開催されており、それに参加していたことから、ちょっと足を伸ばして僕のオフィスにも寄ってくれたのだ。

 彼はロボットや仮想現実(VR=バーチャル・リアリティ)、拡張現実(AR)の分野で世界的に有名な研究者で、なんというか僕とは利害関係ではなく信頼関係でつながっている、本当の意味で「友達」と呼べる人だ。

 相変わらずめちゃくちゃ頭が切れるので、僕たちのロボットや、そのロボットを使ったビジネスモデルについて、多くのフィードバックをもらった。短い時間の中で、よくもまああれだけ本質を突いた指摘ができるものだと、毎度驚いてしまう。かつて34歳という若さで国立大学の教授になった彼は、「天才」という名声を欲しいがままにしてきたはずなのだが、偉ぶることなんてこれっぽっちもなく、また後進の育成にやたら熱心で、世にも珍しい素晴らしい人だ。

稲見さんがやって来た!貴重なフィードバックを今後に生かさねば