Twice You Are Good

 前回の記事でも書いたが、栗田工業による電光石火の買収劇は、2018年5月30日に発表となった。プレスリリースと日経ビジネスオンラインの号外が出るやいなや、本当に多くの友人、知人、そしてこの連載の読者の皆様からお祝いの言葉をいただいた。Googleに会社を売ったときも同じようなものだったので、もうあまり驚くことも無いとは思っていたが、とはいえ一つひとつの祝福の言葉は、しんみりと心に染みるものだ。

 その昔、『Once You're Lucky, Twice You Are Good』という題名の本があった。僕は昔からこの本の題名が大好きだった。本質をついているし、何より語感が良い。起業して一回成功しましたと言うとき、もしかしたらそれはただのラッキーかも知れない。でも起業という傍目(はため)には成功確率の少ないゲームで2回も成功したならば、その人はきっと、何か運だけではないものを持っているのだ。

 以前『無敵の仕事術』(文春新書)でも書いたが、少しずつ少しずつ、雪だるま式に広がっていく成功体験は、自らの人生に無限の自信を与えてくれる。書籍の中で僕はこうした自信のことを「無敵感」という言葉で表現したが、久しぶりに感じるこの「無敵感」に、僕は大いに高揚していた。

 こういう風にやれば、世の中がこういう風に動く。だんだんと僕も年齢を重ねて、ビジネスの方程式のようなものが少しずつ分かってきた。物理専攻で大学を卒業して、それが何だかよく分からないままビジネスなるものに明け暮れた日々を越え、僕はずっとずっと、世の中をよりよく理解したいと願ってきた。

 小さい頃から片親で、大学時代には最愛の母を病気で亡くし、社会人になったときには、両親ともいなかった。世の中の仕組みなんて、誰も教えてくれなかったし、本屋にもよく通ったが、どこの本にも本当のことは書いていなかった。僕は悩んだ。社会とは、世の中とは、いったいどういう仕組みでできているんだ? どうすれば成功できるんだ? そもそもそれがビジネスであったとき、ビジネスにおける成功とは一体何なのだ?と。

 しかし、体当たりで人生を生き抜いて、やがて世の中の仕組みをきちんと理解できるようになると、僕は大いに安心した。なるほど、神様は皆に平等だ。世の中に、安易な成功法則など無かった。自らも人生に悩みながら、善なるものを社会に届けることによってしか、また人並み外れた体力と知力を磨き、またそれを惜しみなく解放することでしか、ビジネスにおける成功は無いように思えた。

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