スタバからオフィスへの帰り道を歩いていると、僕たちは「昨日こんなビジネスの展開を考えてみたんだけど、もしこれがこうなってこうなったら、とんでもないことが起こるんじゃないかと思ってさ」「だったら、それにこんなことを足してみたら、もっとすごいことになるんじゃないか」「おぉ、そしたら世界が変わっちゃうじゃないか。すごいことだ」
…などと、人材採用で意見の食い違いがあったことなど既に忘れて、大いに盛り上がってしまった。お互い単純であることは、このベンチャーにとって間違いなくいいことなのだ。
単刀直入
5月31日、翌日に迫ったサンフランシスコ近郊の水道公社とのミーティングの準備のため、社内で長時間のディスカッションを行う。
僕たちの配管点検ロボットは、石油やガス管の中を走って、パイプ爆発の原因となるキズ、パイプの厚みなどのデータを取得することができるのだが、もちろん同じ技術は水道管にも適用することができる。ガス管もそうだが、アメリカの水道管は経年劣化が激しく、そこかしこで日々水漏れが発生している状況だ。寿命100年と言われる水道管で、50年~60年経ってしまったものの、修繕という意味ではほとんど過去から手付かずのパイプが溢れているのだ。
アメリカという国の、水道やガスといった公共インフラの老朽化は、技術的なイノベーションが起こらない限りとても修繕が追いつかない危機的ともいえるレベルに達しており、これまでも何回か先方の経営陣や、外部からイノベーションを取り込んで問題解決に当たるチームとの話し合いを続けてきた。こうした問題を、僕たちのロボットを使いながらどうやって効率的に解決できるか、という視点で話し合いを持つため、日本オフィスから呼んだデータ解析に強いエンジニアと、アメリカサイドでチームが組めそうなデータ解析企業と一緒に事前ミーティングを持ったのだ。
ミーティングは5時間におよび、相当な学びがあった。ところで、アメリカのミーティングは非常にスカッとしていて、僕は気に入っている。たとえば日本だと、外部の企業と話をしようとすると、まずは天気の話から入って、次にお互いの会社の紹介をやり、では次回はもう少し具体的な話し合いを持ちましょう、などといって2週間後にまたミーティングをする、などというまどろっこしいことをしなければならないが(これは、僕にとって半分拷問だ)、アメリカはそんなことはない。
今回のミーティングが良い例で、「Hi」と言って挨拶をするやいなや、正直名刺交換などどうでもよくて、天気の話などしないし、何より、お互いが興味のある事業領域、共通利益をどれだけ早く見つけるか、それをどうやって具体的に解決していくかについて、やたら早口で全員がまくし立てるという、ある意味でものすごく生産的なミーティングになる。こうして頭の良い人たちと話をすると、僕はいつものことながら「ああ、今日も生きてて良かった」と心から思えるのだ。

翌日、水道公社の人たちには、前日のミーティングで自分たちが考えたことをどんどんぶつけていく。幸運なのか、当たり前なのか、どうやら興味を持ってもらえたようで、具体的に話を進めてみようということになった。一方これとは別に、5月半ばには、ラースさんがヒューストンに乗り込んで、これまでカンファレンスで会った人たちと、具体的にビジネスを進める話をいくつか作ってきてくれた。石油産業やガス産業におけるパイプ点検の話であり、こうした話と、今回の水道管に関する話などについて、どうやってバランスを取っていけば良いのかということに、この先悩むことになるだろうと思っている。
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