6月13日、展示会2日目。この日最大のイベントは、何といっても、サンフランシスコ近郊、オークランド市の水道公社とフラクタ共同で行うセッション「機械学習アプローチによる、水道配管の交換スケジュール最適化」の応援だ。ラースさんが、オークランド市の水道公社の配管分野の責任者と、2人で共同のプレゼンテーションを行うことになっていた。
ラースCOOの熱弁と、吉川君の笑みと
10時40分。イノベーション・ラウンジと呼ばれたオープンスペースの会場は満員の人でごった返している。セッションが始まり、最初は緊張した面持ちだったラースさんも、前日のウォリアーズのゲームに関する話に触れるやいなや、どんどん会場の雰囲気を飲み込んでいく。機械学習とは一体何なのか、どうやってそれを水道配管ネットワークに適用するのか、予測精度はどのくらい正確なのか、これまで人間がやっていた予測より10分の1ほどの時間で結果が出せるのは一体なぜなのか、テンポよく話を進めていく。どこまでいっても頼りになる男だ。
プレゼンテーションが終わると、Q&Aセッションに進んだ。この業界で20年以上、水道配管の分析を行ってきたというコンサルタントが、「2カ月で1つの水道公社が持っている全ての上水道管ネットワークの分析を提供するなんて、不可能だと思います。機械学習だか何だか知らないですが、そんな方法、私にはとても信じられません」と質問なのかヤジなのか分からない言葉をラースさんに投げかける。
ラースさんはどこまでも落ち着いている。「ご質問ありがとうございます。しかし、それは本当に可能なのです。私たちもこの結果に驚いています。極めて合理的なやり方で、このソフトウエアを使い、私たちは実際にそれを実現しています。水道公社の方々から、過去蓄積してきた配管関連のデータをいただければ、早ければ数週間で、結果をお返しできるのです」。
会場にいた吉川君が、笑みを浮かべている。そう、この天才が寝ないでプログラムを書いてきたのだ。この日のために、彼は何度眠れぬ夜を過ごしたことだろう。通常の水道公社が2、3個の変数を組み合わせて配管の状態を予測していたところ、彼は実にその100倍、数百個の変数を扱い、人間ではとても計算できない複雑なパターンを、コンピューターの力をフルに使って解析させていた。僕たちが、ベンチャーとして、一点突破できる市場、勝てるエリアにどこまでも集中してきた結果だった。
夕方6時に展示会の2日目が終わると、夜は現地の人が食べるような食事を食べに行こうということになり、チーム全員でフィラデルフィアのダウンタウン南部まで足を伸ばした。フィリーチーズステーキと呼ばれる、チーズ牛丼の具をパンの上に乗せたような食べ物を、アメリカで最初に売り出したというサンドイッチ屋さんで夕食を済ませると、場末のバーで野球を見ながらビールを一杯飲んで、路上のアイスクリーム屋さんでチョコレートアイスを食べて宿に帰ってきた。リビングで椅子に腰を下ろすと、もう誰からも一言も出ない。それもそのはず、各メンバーが、持てる体力を全て展示会に投入していたのだから。

6月14日、展示会最終日。午前中にいくつかのメディアの取材に答えると、午後2時に展示会は無事終了した。ラースさん、マティーとフーリオは、後片付けと、追加の講義に参加するためにフィラデルフィアに残り、僕と吉川君、本多君の3人でフィラデルフィア国際空港に向かった。
僕は空港でこの記事を書いているが、午後6時出発のフライトは午後8時過ぎの出発に遅延したようだ。サンフランシスコに到着するのは夜11時過ぎになるだろう。アメリカに来て1年半。もう飛行機の遅延には慣れっこだ。
さあ、ベイエリアに戻ろう。僕たちの新しい旅は、順調にスタートしたように見えるが、この先に何が起こるかは分からない。金曜日には、この3日間の成果を持ち寄って、すぐに次の戦略を練ろうと、ラースさんと約束していた。
前回も、色々な読者の方から応援のメッセージをいただいた。本当に嬉しい限りだ。読者の方々からの応援メッセージには、全てに目を通すようにしている。応援メッセージなどは、この記事のコメント欄に送ってもらえれば、とても嬉しい。公開・非公開の指定にかかわらず、目を通します。
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