ラースさんは元気かい?

 この日、僕は久しぶりに、興奮と緊張に包まれていた。何しろ事前情報では、栗田工業サイドの参加者は11名。こちらは僕とGCA久保田さんの2名のみだ。ロビーで緊張した面持ちの小林さんに迎えられ、エレベーターに乗って、びっくりするほど大きな会議室に案内されると、しばらくして、参加者が続々とそこに入ってきた。

 まず始めに、栗田工業の飯岡会長と名刺交換をすると、「それで、ラースさんは元気にしてるのかい? アメリカっていうのは、役割と責任をきっちり分ける文化だからさ。ダグさんが入ってきて、色々と大変だろう」と話しかけられて、驚いた。飯岡会長が、この連載『サムライ経営者、アメリカを行く!』を読んでくれていたことに感激したのはもちろんだが、何より、僕がフラクタのCEOをやってきて、これまでで一番悩んだこと(ラースさんとダグの人事)を一発で見抜かれたようで、不思議な気持ちがした。

 それから、門田社長、伊藤専務と、栗田工業の錚々(そうそう)たるメンバーが入室し、会議が始まった。

 伊藤専務から、本件について、栗田工業が本気で検討をしていること、その意味で今回多くの関係者を集めて、僕のプレゼンテーションを聞いてくれていることについて説明があり、僕は、現在のフラクタの取り組みを紹介しつつ、また一方で、今後水道産業がどうデジタル化されていくか? なぜそれが栗田工業にとって重要だと言えるのか? について、真剣に話をしていった。

 そこから、伊藤専務、門田社長を始めとして、フラクタの事業、今後の計画に対して、矢のような質問があり、僕は一生懸命それに答えていった。

サムライの系譜

 僕がそうして質問に答える中で、特に強く印象に残ったことは、この会社は単なるメーカーではないのではないかということだ。特に会長、社長、専務の3人は、大企業の雇われ役員といった感じが全くせず、各々がこれまで世界を切り拓いてきた実業家といった風貌、眼差しをしていた。覚悟を決めた3人のサムライの姿といったところだろうか。伊藤専務の眼光の鋭さは特筆すべきで、僕からすると「こりゃ正直なことしか言えないな」といった感じで、なんでこんな日本企業が世の中に存在するのか、不思議に思うと同時に、こういう人たちが、人知れず日本を支えていたのだと、胸が熱くなった。

 僕は、このミーティングに招いていただいたことにお礼を述べ、東京を後にした。

 急いでアメリカに戻り、栗田工業他からのデュー・デリジェンス(フラクタへの投資に関する調査・監査業務)に対応している途中、小林さんと電話をした折に、栗田工業の創業ストーリーが小説になっているという話を聞いた。僕はそこに何かのヒントがあるような気がして、電子書籍リーダーのAmazon Kindleで、小林さんから案内された、『打出小槌町一番地(城山三郎著)』(短編4部が入っているが、栗田工業の創業者、栗田春生が描かれているのは第2部の「前途洋々」)を2日で読み終えた。

 小説を読みながら、これか(!)と思い、4月4日の不思議な光景がまた頭に浮かんだ。小説には、ハチャメチャに苛烈な創業経営者、20世紀という時代を走り抜いたサムライの姿が生き生きと描かれていた。また面白いことに、その創業者の姿に、僕は自分の姿を重ねていたのだ。

 この小説を読み進むごとに、「この人は、ある意味で、ずいぶんと自分に似ているな」と思った。情熱先行、決して後ろを振り返らず、ひたすらに前進を続けようとする人間の姿に、僕は惹かれた。一方で、常に孤独と共にある、従業員の生活を背負った真の経営者の姿に、僕は共感した。

 なるほど、この創業者の精神が、現在の栗田工業の経営陣の風貌、眼差しに引き継がれているのに違いない。そこらへんの電気メーカーのお気楽サラリーマン役員とは全く違った彼らの眼差し、意を決した発言は、間違いなく信用できた。多くの会社が、この資金調達(結果としてM&Aになったが)に参加を表明し、時として逡巡したものの、栗田工業だけは一度も後ろを振り返らなかった。

 それはかつてGoogleという会社、僕と交渉をしたAndroidの生みの親、アンディー・ルービンに見た潔さと等しい感じがした。日本企業にこうした意思決定ができるなら、日本の将来はきっと明るいに違いない。また、こういう意思決定をしてくれた企業に対し、僕はまた背水の陣を張って、栗田工業と一緒に、人生を賭けてフラクタを成長させてみようと思った。

 ラースさんにその話をすると、「加藤さん、それは素晴らしいじゃないか。資本業務提携は、栗田工業で決まりだ!」と言った。

 この人の明るさに助けられて、ここまで来た。書きたいことは山ほどあるが、これにてサムライ経営者の第1章は幕を閉じよう。2018年6月からはサムライ経営者の第2章の始まりだ。さあ、また忙しくなるぞ、やることがたくさんだ。

弁護士事務所にて。今回も弁護士のナンシーさん、エリックが助けてくれました。アメリカのM&Aはサインする書類が山のようにあります
CTOの吉川君と前祝いにやってきました。彼の苦労が、今回の件でも高く評価されました
本件をフラクタサイドで決裁した取締役会後にラースさんとパチリ。ラースさん、一緒に全力で走ってくれてありがとう。これからもよろしく


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