理屈ではない何か

 話は並行するが、3月7日、8日、9日と、僕がこの件で日本に出張したことは、以前の記事で書いた通りだ。その時は、既に関係性がある栗田工業との面会ではなく、これまで会ったことのない多くの日本企業と面会をこなしていった。

 ところが、人間の縁というのは不思議なもので、ちょうどその直前の3月6日、久しぶりに、小林さんから僕にメールが届いたのだ。サンノゼから成田空港に到着するや否や、小林さんからメールが届いているのを確認した。そこには「加藤さんから以前言われた本気度について、社内できちんと話をしました。改めて、本気でフラクタと一緒にやりたいと思っています」ということが書いてあった。

 久しぶりの日本で、隙間なく埋まったミーティング・スケジュールの最中、栗田工業の小林さん、中山さんと僕は、電話会議を持った。電話越しに、以前と少し違った雰囲気の小林さんを感じた。

 「加藤さん、栗田工業は、ベンチャーと本格的に事業提携ができる会社です。弊社の常務(現在の伊藤代表取締役専務)とも話をしました。是非フラクタさんの、今回の資金調達に参加させてください」

 僕はこう返した。

 「小林さん、以前も話をしましたが、僕は栗田工業がこれをやらなきゃいけないと思っています。フラクタは、ベンチャー企業ながら、アメリカのインフラにおける人工知能競争、とりわけ水道産業における人工知能競争の中で、良い位置に付けています。とはいえ、小さい会社であるのは事実で、リソースは常に不足しています。世界の栗田がこれをやらなきゃいけないんです」

 理屈ではない何かがそこにあった。

4月4日、中野駅北口

 アメリカに戻った後、僕とヒロは、栗田工業新規事業推進本部の中山さん(部長)、小林さん(課長)、星野さん(課長)と一緒に、事業計画についての議論に入った。守秘義務契約を交わし、具体的にフラクタがどのような技術を持ち、どのような市場セグメントに切り込んでいるのか、詳細を明らかにしていったのだ。

 前回の記事にも書いたが、他の多くの会社にも一斉に情報を開示しなければならず、3月後半はあっという間に過ぎていった。

 そんな折、小林さんから連絡が入った。4月4日(水曜日)、栗田工業の経営陣に対して、ビデオ会議でプレゼンテーションを行ってもらえないか?という依頼だった。

 僕は二つ返事でOKしたが、その直後に小林さんからもう一通メールが入った。

 「急な話ですが、4月4日、日本にいらしていただくことは可能でしょうか?」

 どうやら、栗田工業の会長、社長、専務他、多くの経営陣がこのミーティングに出席してくれるらしく、ならば直接対面して話したほうが良いのではないかという小林さんの配慮だった。

 こういう時に、僕は迷いが無い。僕は月曜、火曜と入っていた全ての予定をラースさん他のメンバーに任せ、すぐさまに飛行機のチケットを取って、前日の夜に東京に入った。

 1日だけの東京出張だった。4月4日当日の光景を、僕は忘れることができない。JR中野駅北口のスターバックスでGCAの久保田さんと待ち合わせると、僕たちは簡単に打ち合わせを済ませ、そこから徒歩5分ほどにある、栗田工業の本社ビルに向かった。