トップ営業 with ダグ
翌朝早く、僕たちはホテルのレストラン(朝食会場)に集合し、その日の営業に関する役割分担を整理しながら、資料の最終チェックを行っていった。
テキサス州はカリフォルニア州との間に2時間の時差があるため(テキサス州の朝7時は、カリフォルニア州の朝5時なのだ)、朝はどうしてもグッと早起きした感じになる。眠気を覚ますため、相変わらずコーヒーを4杯連続でがぶ飲みし(さすがに牛乳もたくさん入れたから、カフェインは3杯分くらいだ)、朝からハイテンションで議論を行った。そして、カリフォルニアで朝からスタンバってくれていたマティーに僕たちは朝からしつこく質問し、プレゼンテーション資料の細かい点を整えることができた。
水道会社との約束の時間30分前になると、僕たちはレンタカーに飛び乗り、水道会社の本社ビルに向かった。受付を済ませると、通されたミーティングルームには、既に8人ほどの参加者が着席しており、なるほどこれから重要なミーティングが始まることが感じ取れた。
フラクタ製品の営業に関して面白いところが一つあるとすると、それは、先方の参加者が非常に多いことだ。水道配管の更新は、アメリカ全体で社会問題化しており、それを思い切って解決することができるソフトウェアを売りに来た、となると、水道会社の中でも多くの人が興味を持ってくれる証拠だろう。
結論から言えば、1時間半のミーティングはすこぶる上手くいき、あっという間に時間が過ぎ去ってしまった。主にダグがプレゼンテーションをリードしてくれたのだが、それ以前に、ドンがこの水道会社を何度も訪問し、しっかりと場を整えておいてくれたためか、非常に好意的な意見が多かった。きちんと仕事をしてくれている2人のおかげで、僕は本当に文字通りの「トップ営業」ということで、しっかりと方々にご挨拶をしつつ、多少技術的なところを説明するくらいでミーティングを無事終えることができる。
それにしても、このダグという人は、隣りに座って話を聞いていて、とにかく頭が良いなと思うことがある。頭の中で話すことがきちんとまとまっていて(何だかタンスの引き出しに、これから話すことが整理整頓されてしまわれているようなイメージだ)、おまけに性格が真面目だから、プレゼンテーションにしろ雑誌の取材にしろ、一つひとつ準備に余念がない。
5月初旬に雑誌のインタビューがあった際も、フラクタの会社概要から製品の特徴まで、まさになにか落語のCDでも聞いているかのように、端から端まで淀みなく話をする様には、本当に驚いてしまった。ダグに任せておくと、だいたいのことが上手くいく。抜群の安定感と安心感。おまけに本人は元アメフト選手で運動神経も抜群ときていて、息子さんは陸上競技のオリンピック候補選手だというのだから、何とも神様は不平等だなと思いつつ、とはいえ本人の努力の量はそれを説明して余りあるので、本当にすごい人だと思う。
兎にも角にも、こんな感じで、ダグとドンに助けられ、僕たちは営業を大きく一歩前に進めて、水道会社を後にした。


刺さり始めている!
5月11日には、記念すべき年間契約の2本目が決まった。もちろんフラクタは全員で大盛り上がり、何か少しずつ営業に運動量が出てきたような気がして、僕はとても嬉しかった。
少しずつ、少しずつ、フラクタが前進している。僕たちは、世界でまだ誰も見たことがないものを創り、売っている。水道会社、水道産業がこれを全面的に認知するまでには当然たくさんの時間がかかるだろう。
しかし、この問題で本当に困っていた人たち、アメリカのどこかの水道会社の中にいる、この問題を心から解決したいと望んでいる人たち(こういう人たちを、マーケティングの世界では「アーリー・アダプター [つまり、最初に製品を使ってくれる人という意味]」と呼んでいる)に、僕たちの製品コンセプトが刺さり始めていた。
先月くらいから、何か潮目のようなものが変わった気がしている。思い過ごしかも知れないが、僕たちの会社、フラクタという飛行機は、長い長い滑走路を勢いよく走り抜け、その勢いに比例した揚力のようなものを使って、離陸し始めているのかも知れない。毎日資金調達に明け暮れながら、僕は来るべきフラクタの未来に大きな大きな希望を抱いていた。

前回も、色々な読者の方から応援のメッセージをいただいた。本当に嬉しい限りだ。読者の方々からの応援メッセージには、全てに目を通すようにしている。応援メッセージなどは、この記事のコメント欄に送ってもらえれば、とても嬉しい。公開・非公開の指定にかかわらず、目を通します。
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