思えばなんでこんなことをやっているのだろうか。僕の新しい生活や冒険について書き綴る前に、自己紹介をしておいたほうが良いだろう。何しろロボットベンチャーの経営は2社目なのだ。
すべてはSCHAFTから始まった
僕が経営に携わった1社目のロボットベンチャーこそは、冒頭で僕がヒューストンからサンノゼに降り立った4月6日(時差があるので、それは日本時間の4月7日だ)、東京で行われた新経済フォーラムのイベントで、2年半ぶりに、世間に顔を見せたSCHAFT(現在はGoogleが持株会社化したAlphabet傘下のX[エックス]という組織の中にいる)だった。
僕はアメリカにいたので、生でそのプレゼンテーションを見ることができなかったが、動画で確認する限り、SCHAFTのCEOだった中西雄飛さんが久しぶりに聴衆の前に姿を現し、スター・ウォーズに出てくるR2-D2を彷彿とさせる新型二足歩行ロボットを披露すると、会場の聴衆は度肝を抜かれたようだ。

そりゃそうだろう。何しろアメリカ国防総省主催のロボット競技会(DARPA Robotics Challenge Trials)で、NASAやMIT(マサチューセッツ工科大学)、CMU(カーネギーメロン大学)などといった世界屈指の研究機関を一切寄せ付けず、圧倒的な技術力を証明して1位を獲得したのが、このSCHAFTだったのだから。
僕がなぜSCHAFTというヒト型ロボットベンチャーの立ち上げに参画したのかについては、今年3月20日に出版した新刊『無敵の仕事術』(文春新書)や、前著『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社)に詳しいので、ここであまり触れるつもりはない。要は、東京大学の助教だった2人のヒト型ロボット研究者の、ベンチャー創造に関する相談に乗っているうちに、それがあまりに素晴らしい技術であり、かつ創業メンバーの2人に共感してしまったこともあり、どんどん深みにはまってしまい、結果として一緒に経営してしまったという話なのだ。
まだ政府が「ロボット革命」などという言葉を掲げるずいぶん前の話で(もちろんSCHAFTの話がこのロボット革命の発端かつ契機になっているのだろうから、この順番で仕方ないのだが)、ベンチャーキャピタルがSCHAFTに1円たりとも投資することなく、中央官庁も助けてはくれなかったという過去の実話も、今では隔世の感すらある。結局、当時の僕たちは少ない資金で何とか生き延びていたのだけれど、ただし、技術力は世界一のものを持っていたので、最終的にアメリカのGoogleがSCHAFTの全株式を買収したということで、一躍話題になったのだった。
それが2013年の11月だから、もうずいぶん昔の話になってしまった。今のところ、後にも先にも、Googleが日本企業を買収したのはSCHAFTだけではなかろうか。そんなこんなで、SCHAFTの取締役CFOとして、同社をGoogleに売却することに成功したという仕事が僕の出世作となり、世界から注目を集めることができた。
何しろそのおかげもあり、アメリカでO-1ビザ(卓越能力者ビザ)という、芸能人やらスポーツ選手やらが取る就労ビザを取得できて、こちらに滞在できているのだから、ありがたい話だ(アメリカのビザ取得は面白く、また大変なプロセスなので、これはまた機会があれば触れよう)。
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