オフィスの移転というものは、いつも素晴らしい副産物を会社にもたらす。かつて、僕が書いた『無敵の仕事術』(文春新書、2015年)でも触れたことだが、人間というものは、面白いぐらいに、場所が変わると気分が変わる生き物なのだ。
現実的かつパワフルな方法で、僕たちは変わる
僕たちは、ベンチャー企業だ。社会の中でまだ満たされていない市場機会(=チャンス)を求めて、軟体動物よろしく、どこまでもどこまでも柔軟に自らの身体の形を変化させていかなければならない。
ハードウェアからソフトウェアへ・・・、アメリカで毎日戦いながら、僕たちのビジネスは大きな変化を遂げてきた。ロボットを売り込んでやろうとアメリカに来て悪戦苦闘を繰り返すうち、石油産業からガス産業、そして水道産業へとターゲット市場が変化していき、また、こうした市場の特性と連動して、僕たちはいくつかこの市場を攻略するために大切なことに気づき、またその結果として、技術的な問題解決アプローチを変化させてきた。
だんだんと、だんだんと、僕たちのビジネスのコアは、機械学習を使ったデータ解析という分野に近づいていき、今では、製品の中心は吉川君が毎日必死に書いているソフトウェアになってしまったということだ。
オフィスの移転に話を戻せば、こうしてビジネスの環境がドラマチックに変わりつつ、またそれを後押しするようにオフィスの環境を変えることができたことは、会社のメンバーにとって良い影響を与えていると思えてならない。
目に映るものが変化すれば、人間の考え方が変わる。簡単なことなのだが、これを現実世界で実現することは意外と難しい。僕はそれを実現するための現実的かつ最もパワフルな方法のうちの一つが、引越しだと思っている。必要に迫られて引越しをしたことが、さらにチーム・メンバーの活力を向上させたように思うのだ。
仕事が終わる夕方には、マットがどこからともなくギターを持ち出して、テキサス仕込みのカントリー・ミュージックを奏(かな)で、歌を歌い出す。それにつられてフーリオが自分のマリアッチ(=メキシコの音楽を演奏する楽団のこと。フーリオは学生時代、マリアッチのバンドに入っていたのだ)ギターを持ち出してマットに続く。だんだんと、ここがオフィスなんだか運動部の部室なんだか分からなくなるときがあるが、皆が目をキラキラとさせながら仕事に邁進しているのだから、これはこれで良いのだろう。

中国・商時代の湯王の言葉にもあるように、「苟(まこと)に日に新たに、日日に新たに、又日新たなり」(意味:今日の行いは昨日より新しくなり、明日の行いは今日よりもさらに新しくなるように心がけるべきである)ということが大切だと、僕はいつも思っている。副社長のラースさんもよく言っている。「加藤さん、Reinvent yourselfだ。ここシリコンバレーでは、自分自身をいつも、再定義し続けるということが大切なんだ。そうしないと、やがて変化に取り残されてしまう」のだ。
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