よく晴れた2月27日の朝、思い思いに取締役会に参加する各メンバーがレッドウッドシティにあるフラクタオフィスにやってきた。圧巻だったのは、社外取締役のデーブだ。銀色にきらめく、今まで見たことのないような限定版のポルシェで爆音とともにオフィス前の駐車場に到着すると、トヨタ・プリウスで音もなく到着した僕と固い握手を交わした。

 「やあ、デーブ。久しぶりだね。来てくれて嬉しいよ」

 「やあ加藤さん。こっちこそ会えて嬉しいよ。先週は日本に営業に行ってきたんだ。初めて東北地方に行ったら、雪が降っていてさ、何とも美しい雪景色に驚いたよ。日本は良いところだな」

 デーブとオフィスの入り口で談笑していると、ラースさん、ジェネラル・カウンセル(社内の法務部門責任者)のジョーダンも合流して、皆で近くのスターバックスまでコーヒーを飲みに行った。

 混んで長い列ができたスターバックスで、デーブと一緒に話をしながら注文の順番を待つと、僕たちの順番になった。デーブが「カフェラテのVenti(ベンティー)サイズ」と注文すると、僕は何だか嬉しくなった。なるほど、シリコンバレーの雄は、スターバックスでもデカい飲み物を注文するのか(Ventiというのは、Tall[トール]、Grande[グランデ]のさらに上、スターバックスで一番大きい飲み物のサイズなのだ)。

 僕もすかさず「普通のコーヒーの、Ventiサイズで」と注文してみた。人生初のVentiサイズはTallサイズの2倍くらいの大きさがあって、飲みきれるか心配だったが、こんなところでも僕はデーブから何か少しでも学ぼうとしていた。頭が良く、性格が良く、また根性もある。そんなデーブに僕はある種の憧れを抱いているのだ。

 話に興じながらオフィスに歩いて戻ると、投資家が既に到着していた。さあ、取締役会のスタートだ。

デーブの男気を胸に

 取締役会は非常に高いエネルギーレベルを持って始まった。まず僕から、全社の戦略が3カ月前の11月とこの2月でどう変わったのか、どういう背景のもと、CEOとして、何故そう変えたのかについて説明をしていった。デーブや投資家は、真剣な眼差しを注ぎながら、適切な質問を投げ掛けてくる。

 僕は興奮していた。彼らの質問はどれも極めて正しく、質問を受ければ受けるほど、僕が行ってきた経営判断の正しさが証明されるような気がしていたのだ。一切の妥協と私心を排し、苦しい思いをしながらいくつかの決断をしてきた。そこに甘さがあったなら、一つひとつの質問には答えられなかったはずだ。だからこそ、その質問の一つひとつが僕には嬉しかった。

 僕のプレゼンテーションに続いて、ラースさんがこの3カ月で製品がどのように変わったのか、それは何故変わったのかについて説明していく。続いて、取締役ではないが、ダグが会議室に入り、営業とマーケティングに関するアップデートを行ってくれた。非常に優れたプレゼンテーションだった。デーブからいくつか質問が投げ掛けられるが、ダグはそれに真正面から答えていく。フラクタの製品に関して、なぜこういう売り方をしなければならないのか、会議に参加した誰もが、腹の底から納得した。