思い起こせば、吉川君が僕たちの冒険に合流してくれたのは、本当に偶然の出会いがきっかけだった。2015年に僕がスタンフォード大学を訪問した際、たまたまエレベーターホールで吉川君を見かけたのがきっかけで、彼の研究室を案内してもらう機会があり、(毎度、僕の人生はそんなものなのだが)そのきっかけを無理矢理こじ開ける形で、僕が熱烈にこのベンチャーに誘ったのだ。

 彼のように、技術力があり、かつある種のハングリーさのようなもの、そして途方もない前向きさを持ち合わせている若者と一緒に仕事をしていると、自然とカラダがポカポカしてきて、「俺たちは、何か本当にデカいことができるんじゃないか?」という、根拠があるんだか無いんだか、もはや何だか分からない情熱に満ち満ちてくる。彼のような若者を大切にすることが日本の使命であり、彼にチャレンジングな仕事や環境を与えることが、つまるところ僕の仕事ということだろう。

 いずれにせよ、プログラムを書く彼の両腕に、このベンチャーの命運がかかっているのだ。だからこそ、毎日彼と話をしていて、彼がプログラムを書く上で何らかの問題を抱えている様子が垣間見えると、「もしかしたら当初の見込みが甘かったのかも知れないな。解析ソフトウェアを作ることは、そんなに簡単なことじゃないのかも知れない。ひょっとしたら、方針を変える必要があるのかも知れない」と絶望的な気持ちになるし、また彼が良い形でモデルを組めている様子が垣間見えると、「この先に未来があるな。やっぱり僕たちが考えてきたことは間違いじゃなかったんだ」と思えてくる。なんとも単純かつ不思議なことなのだが、この感情のジェットコースターとも言うべき状況が、毎日毎日訪れるのだ。

改めて響くアンドリーセンの言葉

 かつて僕が、『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社)という本を書いたとき、現在のIT革命、インターネット革命の生みの親であるマーク・アンドリーセンの言葉を引用したことがある。彼は、インターネットの情報を拾ってきて、ディスプレイに映し出す世界で初めてのソフトウェア(インターネット・ブラウザ)「Netscape(ネットスケープ)」を作った人で、起業家の心のありように関して、過去こんなことを言っている。

 起業するってことは、君たちがこれまで経験したことがないような人生のジェットコースターに乗るようなものだ。ある日、自分には世界を征服できるんじゃないかと思うこともあれば、その数週間後には、自分の事業は破滅するんじゃないかと感じることもある。事業が先に進むにつれて、こんな気持ちの変化が何度も何度も繰り返される。

 これは大人になれない起業家だから経験することではなく、むしろ責任感のある起業家だからこそ経験することでもある。起業には不確実性やリスクが付きものだからね。…物事が本当にうまく運ぶ日もあれば、全くダメな日もある。それが自分の感情やその時のプレッシャーによって増幅されて、ジェットコースターに乗っているような気持ちになるってわけだ。
(マーク・アンドリーセン)