しかし、検討を開始した当初は、「そんなにうまい話があるはずない」とも思った。だから、僕たちは何度も何度も検討した。水道関連の展示会に出かけ、いつもの調子でラースさんと業界関係者に話を聞きまくった。メモを取り、夜になるとスポーツバーでそれをかき集める。それだけと言えばそれだけだが、こうした積み上げを毎日行うことの効果は計り知れない。業界関連のレポートを机に積み上げて端から読み、専門家にヒアリングをかけて、僕たちがやろうとしていることが、決して見当違いな方向ではないことを確認していく。

 「これは、賭ける価値がありそうだ」

 僕たちは、ついに確信を持ったのだ。それはいつのことだっただろう。9月、10月、11月…。日に日に確信が深まっていったので、明確にこの日というのは言えない。しかし僕たちはこの方向に賭けようと決めた。

全速前進に必要な情熱を急募。しかし妥協はしない

 ここで、冒頭の人材採用の話に戻ってくる。僕たちはこれまで、できるだけ最少の人数で事業を運営しようと心がけてきた。当初はいくつかの市場を見据えていたことから、進むべき方向性が明確に定まるまで、いたずらに人を増やすことができなかったのだ。2016年にはこの記事の登場人物が数人しかいなかったことを、読者の皆さんは知っていることだろう。何しろ僕とラースさん、マットとフーリオ、そして日本人のヨネ(米村さん)しかいなかったのだ。

 しかし、進もうとする方向性が固まった今、一日でも早く目的を達成するためには、資金的、人的資源をもっともっと投入するべきだという結論に達した。日本からのリソース補完という意味では、2017年1月にはヨネの後任として、まずは半年間の赴任が決まった機械エンジニアの本多君が、また同じく1月にはデータ解析職としてソフトウェア・エンジニアの吉川君が家族を連れてサンノゼにやってくる。

12月の終わりに、新戦力のソフトウェアエンジニア吉川君が出張でやってきました。水道配管の図面を広げ、解析ソフトを書いています
12月の終わりに、新戦力のソフトウェアエンジニア吉川君が出張でやってきました。水道配管の図面を広げ、解析ソフトを書いています

 一方で、僕たちは、ローカル(シリコンバレーの現地)人材の採用をとりわけ急ぐ必要があった。水道配管の解析ソフトウェアを設計する製品マーケティング職、水道工事現場に行ってロボットを動かすフィールド・エンジニア、会社の経理や人事のサポート職など、ここサンノゼで多くのポジションの募集を始めることになった。

 だからと言って、そんなに毎日多くの応募があるわけじゃない。ここシリコンバレーは技術ベンチャーのメッカ、人材獲得競争も激しいのだ。しかしそれでも、この明るいロック・バンドの一員になろうと思ってくれる人がチラホラ現れて、僕たちはその一人ひとりに会っていった。

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