トヨタ式カイゼンが威力を発揮

 常陸那珂火力が取り入れたのはトヨタ式のカイゼン手法だ。東電は2年前にカイゼンのエキスパートとして知られる内川晋・トヨタ自動車元常務を招き、その指導の下で発電所のメンテナンス作業にカイゼン手法を応用してきた。

 「作業工法や工程、点検内容の見直しを進め、『外段取り』とか『同時併行』、『作業原単位の磨き込み』といったトヨタの手法を積極的に取り入れた」。東電グループで火力発電事業を手がける東京電力フュエル&パワー(FP)の永徳康典・生産性改善ユニット所長は誇らしげに語る。

 一例を挙げよう。まず「外段取り」。若干の設備を追加すれば、発電所を止めないと実施できなかった作業が、運転中でも十分可能なことが分かった。次に「同時並行」。従来は巨大な円盤状のガスタービン部品を、1つのチームがぐるりと1周回って検査してきた。これを改め、チームを2つに分けて半周ずつ同時に検査してみたところ、これも作業効率化に繋がることが分かった。

ボイラー内の大型設備の模型を作成して効率化に生かす
ボイラー内の大型設備の模型を作成して効率化に生かす

 最後に、作業の現状を正しく把握分析してカイゼンに結び付ける「作業原単位の磨き込み」。運転中でもメンテナンス作業を磨きこめるよう、常陸那珂火力は敷地にボイラー内の大型設備の模型を作った。ここで作業員の動きを細かに把握分析し、効率的な作業手順を身体に叩き込む。そうすることで点検作業の本番が訪れても迷うことなく、無駄の少ない作業ができるようになった。

 「当初はトヨタ式カイゼンどれほど効果を発揮するのか半信半疑だった」と永徳ユニット所長は振り返る。だが実際に試してみて、その威力を思い知ったという。もっとも、道はまだ半ばだ。「内川さんからはまだまだ甘いと厳しい指摘をもらっている。我々はまだ1.5合目にたどり着いたに過ぎない」。

 これまで1日単位でしか管理していなかった作業工程を、今は数時間単位で見直すようにもなった。「だが内川さんは秒単位でやれと言う」と永徳氏は苦笑いする。

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