南相馬市、浪江町、楢葉町で除染を検証する委員会に参加した東京大学の児玉龍彦教授は「除染費用も6兆円で終わるわけがない」と指摘する。前述した汚染土の最終処分の問題だけでなく「避難自治体は森林の除染を徹底するよう求めている。これには莫大な費用がかかる」。

 さらに、中間貯蔵施設も用地の買収に同意している地権者はいまだ全体の3分の1にとどまる。地権者約100人からなる30年中間貯蔵施設地権者会は環境省との交渉を続けているが、最大のネックとなっているのが原状回復についての問題だ。

 国側は30年後の返還を約束しているが、地権者の間では中間貯蔵施設を最終処分場に切り替えるのではないかという警戒感が根強い。地権者会は返還を担保するため、原状回復費用の算定を要求している。地権者会の門馬好春事務局長は「22兆円の試算が出たとき、環境省には原状回復費用、除染廃棄物の最終処分の費用、最終処分場までの運搬費用が入っているのか問い詰めたが、入っていないという回答だった。こんな不誠実な試算はあり得ない」と憤りを隠さない。

ウソの狙いはどこにある?

 あまりに杜撰な22兆円の試算。廃炉に係わる東京電力ホールディングスの関係者も「現時点でこんな数字を出せるわけがない」といぶかしむ。原子力損害賠償・廃炉等支援機構も試算について説明した資料中に「見解の一例を紹介するもの」「機構の責任において評価したものではない」と逃げ口上を併記している。しかし、この22兆円という数字に、今後の東電の改革は寄って立っている。なぜこんなことが起きたのか。

 龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は、「東電を破綻させずに国民負担を迫ることが目的だ」とみる。

 今回の改革提言には22兆円のうち2.4兆円を新電力などの送電網の利用料で賄うことになった。電力料金に上乗せされれば標準的な家庭で毎月18円の負担になる。少額ではあるが、東電の廃炉事業のツケを国民が担うことへの反発感情は未だある。

 大島教授は「国民負担を実現するには、費用の増大を演出して『福島のために』と迫る必要があった。一方、事細かに費用を計上すれば、東電が負債の認定を迫られる恐れがある」と指摘する。事故処理費用が膨らみすぎれば、原発の社会的コストも増大することになる。「原発が火力や水力よりも割安だと訴え続けてきた国の理論に傷が付き、各地の原発の再稼働にはマイナスに働く」

 原子力委員会委員長代理も務めた長崎大学の鈴木達治郎教授は、昨年末の東電委員会による東電の改革提言に関して「東電を存続させて事故処理を担わせるという事故直後の前提の下で積み上げた計画にすぎない。今はもう前提を見直すべき時に来ているのではないか」と指摘する。

 電力料金を通じて国民負担を迫る形は「国や電力会社が自由に負担の枠組みを変えられてしまう。あまりに不透明だ」。鈴木教授は東電を解体して、事故処理を担う新たな事業体を発足することを提言する。「基金の形で新たに事業体を作り、第三者機関による監査もつけることが必要。そうすれば、電気料金という形ではなく税金の投入も可能になる。原発を維持したい企業からの寄付も募ることができる」

 これは日経ビジネスの4月24日の特集の中で提言した「東電消滅」ともつながるものだ。「東電の名を残し続けることは、いつまでも事故のみそぎを終わらせないということだ。十字架を背負いながら廃炉事業に邁進している福島の作業員にとっても好ましいことではない」(鈴木教授)。