経済産業省はトリチウム汚染水の処理方法について、稀釈して海洋放出することも検討している。しかし、福島県漁業協同組合連合会はこの案に強硬に反対している。

 そもそも2015年、建屋近くでサブドレン(井戸)によりくみ上げた水を海洋放出して地下水流入を減らすプランの実行に関して、県漁連と東電、国が合意した際、トリチウム汚染水の海洋放出をしないことが条件の1つになっている。県漁連の野崎哲会長は「国と東電は条件を受け入れたものと理解している」と話す。

 今後、県漁連が海洋放出をやむなしと認めるとしても、追加賠償が発生するのは避けられない。小林氏は約1500人の漁業者への賠償を3000億円と見積もる。ただし、これは福島県内だけに限る賠償額だ。周辺の漁業者からも賠償を求める声が上がる可能性は大きい。

国側の識者も認める試算の穴

日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センター(福島県楢葉町)では、原子炉の一部を再現した巨大な施設で核燃料デブリを回収する実証実験が行われようとしている。

 小林氏の試算にも盛り込まれていないコスト増のリスクはまだある。例えば、メルトダウンした核燃料デブリの取り出しにまだメドがついていない。22兆円の試算のうち8兆円の廃炉費用は、米国のスリーマイル島原発の廃炉をもとにしてそろばんをはじいた。しかし、スリーマイル島事故では燃料デブリが圧力容器の底を突き抜ける「メルトスルー」は起きていない。

 スリーマイル島事故の現場指揮に当たった米原子力規制委員会元幹部で、今回の試算に助言を求められた識者の1人であるレイク・バレット氏も「作業員が原子炉建屋に侵入できないほどの高度の汚染はスリーマイル島でもなかったことだ。様々な要因によるスケジュールの遅れがコスト増につながる」と指摘する。

法廷闘争で賠償額の増額も

 特に空間線量が高い「帰還困難区域」を除き、強制避難区域は今春で解除された。住民への賠償も概ねメドがついた。しかし、国と東電の法的事故責任を初めて認める判決が、3月に前橋地裁で出た。

 賠償額の増額が認められたのは主に強制避難区域外からの「自主避難者」。これまで4万~72万円の一時金しか支払われていない。判決で認定された賠償額は20万~70万円だった。

 自主避難者の総数は明確になっていない。仮にピーク時の総避難者数(約16万人)の大半に今回の増額が認められたとしても、賠償額は数百億円にとどまり、処理費用への影響は小さい。しかし、避難者側の弁護団長の鈴木克昌氏は「地裁では避難先でのいじめといった被害に関する訴えを十分にできていなかった」としており、原告の約半数が控訴。二審も勝訴すれば、賠償額の増額もあり得る。