中国の経済成長が進むにつれて、経営者もスマートになってきたという話も個人的には印象に残りました。中国経済や中国の企業は今後どのように変化するとおもいますか。

高口:2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した時、中国では「国際接軌」というタームが流行しました。国際社会と同調していくという意味です。立ち遅れた中国社会がWTO加盟と経済成長によって、他の資本主義社会と同じような社会に変わっていくだろうという考えが前提です。

 実際、中国経済の成長率が鈍化するのに伴い、かつてほど破天荒な経営者は少なくなっていますし、MBAを取得したスマートな経営者も増えています。ですが、その一方でドメスティックな中国企業家も必死に生き残りを図っていますし、人間関係や政府とのコネが幅を利かせる中国式ビジネスの世界も色濃く残っています。ドメスティックな世界は過渡期の徒花(あだばな)で最終的には「国際接軌」が実現するのか、それとも中国式の流儀が残り続けるのか。論者によって意見は異なっています。

 私個人の意見としては、中国特有の流儀、文化は残り続けると考えています。私の考えを強く後押しするのは、広東省深圳市での取材でした。例えば世界最速でiPadのニセモノを作り、名をあげた「山寨王」こと、呉燁彬氏。ソニーやパナソニックのように技術力を高めてエレクトロニクスのコア技術を掌握することは、中国企業の中でも国の支援を受けた大企業だけができることだと指摘しています。しかし中国の労働コストが上昇する中、利益率の低い組立業務だけで生き残ることは困難です。

 呉氏はアフリカなど、かつての中国と同じく労働コストが安く高成長が見込める市場で、低付加価値の組立産業を再現しようとしています。さらに、メイカー・ムーブメントという新たなクリエイティブの源泉からヒット商品を作り上げようとするなど、多角的な生き残り策を摸索しています。

 ファーウェイやアリババといった、高い研究開発能力を持つ大企業。中国内外の研究機関が生み出したベンチャー企業家といったスマートな人材。彼らに注目が集まりがちですが、呉氏のようなドメスティックな企業家がまだまだ今後も存在感を示していくのではないかと考えています。そうでなければ中国の産業は頭でっかちになる一方で、深刻な空洞化に陥ることになるでしょう。

中国に学ぶ「実事求是」

その中で日本の企業、ビジネスパーソンはどのように生きていくべきだと思いますか。

高口:中国には「実事求是」(事実に基づいて真実を究明する)という言葉があります。思い込みを捨て去ってファクトベースで物事を受け止めることが何事においても重要です。中国は遅れている、あるいは中国経済はいつまでも高成長が続くなどの思い込みを捨て去って、まずは知ることが必要ではないでしょうか。

 中国人が真摯に日本を学んでいるのに、日本人は中国について無知なまま。これでは勝負になりません。皆さんの知識と世界を広げるのに『現代中国経営者列伝』がお役に立てば、それに勝る喜びはありません。