「そんな時に、別の会社から中途入社された方がいて、こちらも同じカルチャーショックを受けるわけです。ということは、第三者的に客観的にみて『やっぱりおかしい』。ならば、同じ想いを持つ同僚と会社を少しづつ変えていこうと思いました」

松浦賢太社長(右)。左は共に改革に挑む山本工場長
松浦賢太社長(右)。左は共に改革に挑む山本工場長

 具体的には?

 「早い話、高精度なマシニングセンターと恒温室があるわけですから、機械に任せられるところは任せて、ムダな働き方をやめようということです。基本、定時で帰ろう、と」

 それはまた、“企業文化”に真っ向楯突く行動ですね。

 「そのためにはどうしたらいいか、まず、工程や方案を煮詰める。汎用性のある精度の高い治具を作る。CAD/CAMやシミュレーションソフトを活用して、歪の出にくい加工プログラムや切削条件を出せるようにトライする。計測システムを使い、機械の精度変化を読み、効率よく機械をそれに合わせて動かすようにしていきました」

 専門用語は分かりませんが、つまり「高性能な機械がフルに活躍できるようにきっちり段取りを作り込む」ということでしょうか。

 「その通りです。工程とはゼロから完成するまでの全体的な加工の流れを考え、方案とはその都度の加工に合った削る条件や加工の方法を考えます。しかし、それだけでは足りません。さらに、品質保証課との繋がりも欠かすことはできず、マシニングセンターと三次元測定器との測定差も把握しないとなりません。

 もちろん、従来通り『徹夜しても絶対にやらなくてはならない、人海戦術的なミクロンを狙う仕上げ』の工程もあります。でも、普段から残業が当たり前なんて、おかしい。帰って家族と過ごす時間や体や頭を休めることも必要でしょう。

 もっと正直に言えば、先輩が帰らないから自分たちも帰らない、という悪循環もあり、コストにも跳ね返っていたのです。このために、見積りと製作コストが合わないことが多々ありました」

ムダな仕事をなくせば、業績もスキルも上がる

 それにしても、30人からの組織のなかで2人だけというのはきつい…

 「最初は『そんなことで本当に大丈夫か? 誰か面倒見てやれ』と顧問からも言われ続けました。ピストンを製作するシステムが確立し、1年ほど踏ん張った頃からようやっと軌道に乗り始めたんです。最適な工程により部品精度も上がり、的確な工数により見積りは最適化され、案件も増え、短納期多品種になりましたが、それでも定時で『おつかれ!』って帰ることの方が多かった。総削出ピストンのマシニング工程においては、72時間/40個無人運転化も可能となり形状精度±0.015mm以下、重量差0.3g以下にまで作り込みが可能となりました。この精度で仕様違い含め年間8000個以上製作した実績もあります」

 …きっとすごく感心すべきところなのだと思いますが、不勉強ですみません。

 「いえいえ(笑)。そしてこの辺りから徐々に、会社の雰囲気が変わり始めました。部署間同士の相関が取れはじめ、各部署で工程や治具の最適化が進み余裕が生まれて、そうなると、他業種の案件へも積極的に営業できるようになっていく。さらに、外注に頼っていたところも内製に取り込むようになりました。これは、会社の持つ本来のキャパを把握できたことと、各自のスキルや意識レベルが上がったからだと思います」

 個人の生活だけでなく、会社として効果が出てきたってことですね。

 「5年ほど前に『残業申告書』というものを作りまして、残業をするには上司の承認が必要になっています。この申告書により、管理監督者は社内の負荷状況を把握しつつ仕事の采配を決め、作業の妥当性を管理監督します。これにより仕事へのメリハリがついています。そして、売り上げが伸びて税金で持っていかれるくらいなら賞与で還元します、ということで、ここ4年ほど夏、冬、期末の年3回出しています」

 おお。報われる残業(涙)。

 「みんなの意識が変わると、仕事自体も、もっとより繊細に、もっと精度の高いモノが迅速かつ正確に作れるようになり、そうなれば単価にも効いてきます。この会社に普通に入社して“ケン・マツウラ”しか知らなければ、どこに問題があるのか、何が正しくて、何が間違っているのか、さえ分からなかったかもしれません。外から見るってすごく大事ですよ」

 それで言えば、米内さん(タマチ工業社長)にもお聞きしたのですが、なぜ、トヨタはこうした先端の開発を、自社内で抱え込まずに御社や、タマチさんなどに依頼するのだろう、と。もしかしたらそういう「身内だけど外の眼」が必要と感じているのかな、とか。

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