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 それにしても、お昼休みなのかと思うくらい音がしません。静かですね。

 「半地下、というか、建物の周りを土で覆ってあるので、遮音性が高いんです。なによりも、温度を一定に保ちやすいので、エンジン加工などの精密作業に最適なんですよ。ええ、私のアイデアです。さて、中に入りましょう」

出所:ケン・マツウラレーシングサービス

 温度変化が少ないのは分かりますが、しかし、ここまでやらないといけないものですか。

 「いい工作機械でもクセがあって、使い手によって精度が保てないこともなきにしもあらず、です。思った通りに動かすには、気温を含めた外乱要因を何が何でも減らさねばいけません。土で覆うことで、外の気温変化の影響を減らせることはもちろん、内気の温度をコントロールできる。エアコンですか、時期によっては使用しますが、瀬戸内の安定した気候もあって、使わなくてもいい時期もあります。

 この温度管理によって、工作機械のいちばん“おいしい”性能の部分を使うことが出来るんです。実際、図面に『20度プラマイ0.5度で計測しなさい』と指示があったりしますからね。ここでなら、その温度域に持って行ける」

 ええっ。

温度変化の制御は精度に直結する

 「素材にもよりますが、我々が扱う金属は人間が10秒触るだけで膨張して、元に戻るのに時間がものすごくかかるんです。レーシングエンジンの部品で高い性能を狙うには、そこまでの配慮が必要なんです。完全なオートメ化は難しく、仕上げの工程だけでも、工作機器を扱う人が思い通りに動かせるように、環境を整えることが必要です」

 工場を土で埋めてまでも。

 「さっきエアコンのお話が出ましたが、空気が滞留する場所ができたり、冷気が直接当たったりすると、機械のある一部分だけが冷えてしまう、素材だけでなく、工作機械自体も金属製ですから、温度変化で伸び縮みするんですよね」

 あああ、そうですよね。

 「だから温度を一定にしておかないとオペレーターが苦労する。0.005mmの精度を要求される部品を何個も同じ様に作るために、つねに補正しなくてはならない。それを助けるために、空気を循環させ熱溜まりを少なくする事が重要です。会社の子たちは、常に工場内の温度計を確認しています。現場でつかう部品工程工数表には、仕上げたときの時間、外気温、機械内部温度が書いてあります。実は、特に『記入しなさい』とは指示しておらず、オペレーターが機械の特性を掴む為にデータを蓄積し年間の変動を解析しています。より良いモノ造りに活かそうとする取り組みだと思いますし、0.001mm台を狙う仕事だ、という気持ちがみんなにあるので、ここまでするのだと思います」

(後編に続きます→「父の会社は最先端、どころか時が止まってた」)

(※「紫電改展示館」は、私はすっかり行く気になって、取材終了後に調べたところ、松山市街から150キロあるので今回は諦めました…。高速道が宇和島まで通じているので、LFAならばあっという間なのかもしれません)

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で宮里藍さんのお名前を誤記しておりました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2017/06/15 11:50]