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 (ガンダムの話のわけがないから…)「紫電改」ですね。川西航空機が作った、零戦の後継となる日本海軍の傑作戦闘機でしたっけ。子供のころ本で読んだ程度のことしか知りませんが、小回りを利かすための自動フラップが付いていたとか…。

紫電改の自動空戦フラップ

 「そう。自動空戦フラップ。飛行速度や荷重を検知して、パイロットが操縦桿を動かすだけで、自動で最適な角度で補助翼(フラップ)を動かして急旋回を可能にする。これは仕組みとしては現代の戦闘機と変わらない、とても先進的な発想なんです。それが当時の日本で生まれたのは戦争の影響ですね。もちろん、戦争はいかんし人が死んではいけません。ですが、“競争”がなかったら、技術も人間も進歩しないのも確かだと思う。ジェット機だっていまだに飛んでいないかもしれませんよ」

 そうか、東京から松山まで飛行機で90分! なんて、“競争”がなければ無理だったのかもしれませんね。

 「お二人が今日降りた松山空港は、紫電改を集中的に装備した『三四三空』が配備されたところでね。あの源田実が率いた部隊ですよ。

 現代に比べたら、ないないづくしの当時の日本で、自動空戦フラップを作り出した人達がいる。僕は煮詰まると、よくこの話を思い出して自分をもっとがんばれと励ますんです。海に沈んだ紫電改を引き上げて展示している施設(紫電改展示館)も近くにある(※)ので、時々行きますよ。自動空戦フラップの仕組みも解説されています。

 繰り返しますが、私もぎりぎり戦中派なので、戦争を持ち上げるわけでは決してないのですよ。一方で、競い合うことがなければ、やはり新しいものは世の中に出てこないのではないか、と思うんです。

 うちがエンジンの開発にご協力しているTS050を見れば、レースがいかに『少ない燃料で、大きな仕事』をするために役立つかがよく分かります。燃費は年々改善されているのに、パワーは上がる一方ですからね」

佐藤琢磨の偉業の報道はあまりにも控えめ

 競争、といえば、昨日(5月29日、米国では28日)、米国の「インディ500」で、佐藤琢磨選手がついに優勝しましたよね(日経電子版の記事はこちら)。

 「そう。あれはものすごいことです。インディ500って、米国の“大相撲”みたいなものですから。日本の大相撲では外国人力士が優勝するのは当たり前になってしまいましたけれど、インディ500で外国人、まして日本人が勝つ、って、ものすごい大事件です。40歳まで諦めずに米国で闘って、すばらしい結果を出した。でも、母国の日本ではろくに報道されないでしょう」

 はい…。モータースポーツが好きな人には忸怩たるものがありますよね。

 「今日のスポーツニュースはテレビも新聞も、女子プロゴルファーの宮里藍さんの引退ばかり取り上げています。もちろん、彼女は優れた選手で人気もありますが、インディ500での佐藤選手の優勝がそれよりバリューが落ちるニュースだとはとても思えないんです。仮に、ゴルフが日本から消えてもそれはそれで大変だけれど、自動車産業が消えたら国が潰れかねないじゃないですか」

 え?!

 「つい、こういうことを言っちゃうからよくないんでしょうね(笑)。でも本音ですよ。日本を支えてきた自動車産業と、その進歩に大きな貢献をしているモータースポーツに、なぜこれほど関心がなくなってしまったのか」

 今年は、モータースポーツの当たり年ですよね。F1が面白くなったし、WEC(世界耐久選手権)の最上位カテゴリーでは、先ほどお話しに出たトヨタのハイブリッドレーシングカー「TS050」が、開幕戦の英国シルバーストーン、第二戦のベルギーのスパ・フランコルシャン、といきなり2連勝。WRC(世界ラリー選手権)でも、トヨタはデビュー戦とは思えない活躍! ですけれど…。

 「これだけの成果を挙げているのに、寂しいですよね。去年だったかいつだったか、僕、鈴鹿サーキットのメインレースと言ってもいい『鈴鹿1000キロ』を見に行った帰りに、食事をしようと地元のお店に寄ったんですけどね、店員さんに『今日は人出がありますけれど、なにか近所であったんでしょうか』って聞かれて…ホンダさんのお膝元でこれか、と、がっくりしました」