
この週末(2017年6月17日、18日)に開催される「ル・マン24時間」。世界耐久選手権(WEC、ウェックと読む)のみならず、F1の「モナコグランプリ」、先日佐藤琢磨選手が優勝した「インディアナポリス500マイル」と並ぶ、自動車レースの最高峰の一つだ。
昨年、ポルシェに惜敗したトヨタはリベンジに燃え、ネットにもその火力があふれかえっている(こちら)。今年はレースの規則が変更され、ボディ形状(空力)への規制が厳しくなって最高速が伸びないと言われていたのだが、蓋を開ければトヨタは去年よりぐっとスピードアップした。その最大の理由はパワーユニット。他社と同一のルールに従い、燃費も向上させながらよりエネルギーを絞り出している。トヨタのレーシングカー「TS050ハイブリッド」はその名の通りハイブリッド車なので、電池の改善の効果も大きいようだが、モータースポーツ各誌の記事によれば、ガソリンエンジンの性能向上は特にめざましいようだ。
その、トヨタのレーシングエンジンの開発にずっと携わってきた、伝説の男――。
1964年にチューニング専門の会社として起業、1973年には「ケン・マツウラレーシングサービス」として株式会社を立ち上げた、松浦賢氏(72歳)。二輪、四輪を問わず日本のモータースポーツの勃興・発展期を支え、2014年に息子の松浦賢太氏(40歳)に社長を譲って顧問に就いた。「お仕事は世界選手権」の第2回は、この「ケン・マツウラレーシングサービス」を取材することになった。国内・国際レースにパーツを供給する傍ら、二輪四輪メーカーのエンジンや車両部品などの先行開発を引き受ける、従業員34人と小規模ながら、その技術力で大きな存在感を持つ会社だ。
「場所は確か御殿場ですから」とトヨタ広報のKさん。
ならば、前回お邪魔したタマチ工業さんと同じだな、やっぱりトヨタのレース関連の本拠、東富士研究所に近いところになるんだな、と独り合点していたら「あそこは主にマーケティングや配送の拠点なので、お話は本社で」と言われ、どこかな、と思ったら愛媛県松山市だった。…なぜわざわざ松山にレース関係の企業があるのだろうか。大好きな街なので出張できるのは嬉しいけれど。
もうひとつ驚いたのは、ネットで手に入る同社や松浦氏の情報の乏しさだ。レーシングサービス関連のホームページすら見つからない(ところが、松浦賢氏の“趣味”であるらしい、釣りのリールの告知・販売のホームページはばっちり用意されている→こちら)。
セカンドカーはニュル仕様
「これは相当、こだわりの強い方ですね、話をお聞きするだけでも大変かもしれない」
松山行きの飛行機の中で、同行の絵師、モリナガ・ヨウさんと、密かに覚悟を固めたのだった。
羽田から空路1時間半、松山空港の到着口を出たら、すぐに「Ken.Matsuura」のロゴが入ったキャップを被った、日に焼けた姿が目に入った。
「やあ、いらっしゃい! 工場までクルマでお連れしますよ」
…伝説の男、ケン・マツウラ氏は、めちゃめちゃ気さくで話し好きな方なのだった。
駐車場に停めた愛車は白のレクサスNXハイブリッド。お年を召されて、ちょっとマイルドな選択でしょうか? と思ったが「もう1台、レクサスLFAもあるんですよ。高知のほうに山道が続くいい高速があるし、富士スピードウェイもこれで行ったりします。走って面白く緊張感があって眠くならないクルマなので、ちょうどいい」とのこと。明るい眼がきらきら輝いてぜんぜんお歳を感じません。ちなみに、LFAはLFAでも、ニュルブルクリンク・パッケージだそうです。それは眠くなるどころじゃないでしょうね…。
「昼時ですから、まずご飯でも。おいしい鯛飯はどうですか」とのお誘いで、工場に向かう途中の海鮮レストランでインタビュー開始となりました。
伝説の男はそもそも、なぜモータースポーツに興味を持ったのでしょうか。
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