(前回→「富士の麓の「体育館」に工作機械がずらり」)

西富士の小山の上に広大な立地と、体育館のごとき大型社屋。その中に居並ぶどでかい工作機械。タマチ工業の西富士工場にびっくり仰天していた取材班(私、編集Yとイラストレーターのモリナガ・ヨウさん)は、だが、まだこの会社の真の恐ろしさを知らなかった。それは、偏執狂なまでのチェック体制だ。
歩き回るうちに、どの工場にも、完成したカムシャフトやシリンダーヘッドを検査する空間があることに気づいた。工作機械のすぐそばにもマイクロメーターなどの計測器が置かれ、その場でも精度をチェックする。聞いてみると、年間数千点の出荷製品は全数、三次元計測器などを使って綿密にチェックするのだという。
「加工50:検査50、がタマチのポリシーですから」
と、タマチ工業の米内淨(よない・きよし)社長は強調する。
今回はシリンダーヘッドの検査室を見せてもらった(シリンダーヘッド、カムシャフトについてはこちら)。
内視鏡で検査、バリやゴミは鉗子で取り除く
「シリンダーヘッドの内部には、冷却、潤滑のための水路、油路がたくさん通っています。50個くらいあるすべての孔を、ぜんぶ内視鏡でチェックして、中に残った異物やバリを鉗子で除去するんです」と、担当の方が説明してくれた。量産車ならば見逃しても問題のないレベルでも、ここではいちいち人が内視鏡で見て、しっかり排除する。

大変な手間に思えるのですが、かかる時間は?
「製品にもよりますが、一面(ひとつのシリンダーヘッド)に18時間かかったこともありますね」
さらに、E棟でバスタブを発見。これまたチェック用の設備だった。「80℃の湯に水没させ、熱膨張した状態で水泡がないかを確認をします。エア圧で、鋳巣(鋳造品の欠陥)がないかを調べるのです」(松井工場長)。
製造時に十二分に気を配られているように思えますが、ここまでやらないとダメですか、と、工場長に聞いてみると「いや、いくら注意して作っても、やっぱり、こういう検査で(欠陥が)見つかりますよ」とのこと。
米内社長は厳しいチェックの理由をこう説明する。
「素材を我々が仕入れたものならば、失敗しても買い直せば、という考え方もできます。でも、レーシングマシンの場合は部品もお客様から預かった、世界一レベルの素材なんですよね。それをムダにすることはできない。自分たちではリカバリーできないものですから」
「支給品不良率」という言葉があり、これが「預かった素材に対してどれくらいの不良品を作ってしまったか」を示す。目標は0.7%で、現状は0.4%だそうだ。もう事実上、完璧ってことではないのだろうか。
「ですが、まだ満足はしていません。そもそも数字を目標にすること自体が危険を孕むんですよね。不良品を出さないんじゃなくて、数字さえ良ければいいだろう、という意識になってしまうから」
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