あの「オオタ号」の、太田自動車製作所の末裔

 第1回は「タマチ工業」さん。トヨタのWECマシンのエンジンの主要パーツである「カムシャフト」「シリンダーヘッド」などを手がける。従業員127人、うち工場勤務が100人。年商は約21億円。本社は東京都品川区。トヨタのレーシング用エンジンの開発、製造に携わる主要メーカー3社のうちのひとつ(数字はいずれも2017年初旬の取材時点のもの)。ちなみに先ほどのTS050の写真で、下2列目の中央にある「TAMACHI」が同社のマークだ。

 この会社はかつて「太田自動車製作所」という名前で、戦前は「オオタ号」などで知られる、小型自動車の代表的なメーカーだった。1936年(昭和11年)の「第1回全日本自動車競争大会」では、本田宗一郎氏や、日産自動車の前身のひとつ、ダットサンも出場する中、見事に優勝している(当時の社名は「高速機関工業」)。2月のある晴れた日に、イラストレーターのモリナガ・ヨウさんと、西富士の工場にお邪魔し、米内 淨(よない・きよし)社長にお話を伺った。

イラスト:モリナガ ヨウ(以下同)
イラスト:モリナガ ヨウ(以下同)
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 現地は河口湖ICを降りて1時間ほど(中央道経由で訪れたため。東名高速ならば富士川SAから約20分だった)。

 「え、ここ?」とまず驚く。小高い山の上にあるのだ。

 そして、敷地の広さと建屋の数に驚く。カムシャフト用のA~C棟に、シリンダーヘッド用のD~F棟が立ち並ぶ。さらに、体育館のような建物の中にこれでもかと並ぶ、どでかい工作機械群にもういちどびっくり。それほど大きな部品でもない、カムシャフトやシリンダーヘッドを作るのに、ここまでの設備が必要なの?

ずらりとならぶ最新鋭の工作機械群

 「タマチ工業は『設備投資産業』である、と思っています」

 と、米内社長は笑顔で語る。最新の工作機械を積極的に入れて、TGRを初めとする高度な注文に応えていく、ということだ。

 タマチ工業の業務内容は、レーシングカーのエンジンのカムシャフトとシリンダーヘッドを中心に、先行開発中の車両の部品からロケットのバルブや医療機器まで、数多くの精密部品の試作に広がってきた。

 「とはいえ、事業はクルマの部品が9割以上です。その半分がモータースポーツ、半分が次世代自動車向けの試作開発です。そこで求められる品質、スピードに応えるには、目的に応じた工作機械を入れていかないと」

 投資額はいかほど?

 「毎年、1億円以上はコンスタントに投資しています。購入する機械は“金属を削るもの”が多いですが、前期は金属積層装置(金属で作る3Dプリンターのようなもの)を買いました。今期は5軸マシニングセンター、複合旋盤、3次元測定機器などを導入しました。特別なニーズに応えるため、自分たちで装置を作ることもありますよ」

 日本のレーシングマシンを支える部品、となれば、眼光鋭い一刻者の職人が、火花を散らす旋盤に向かってひとつひとつ手作り、という時代では、やはりもうないらしい。設備投資が事業のカギ、ということは、必要な機械さえ入れれば、求める精度は出せる、ということなんでしょうか。

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