「『レースがお仕事』の会社員って、どんな気持ちで働いているんだろう」

 日経ビジネスオンラインに、トヨタの“ル・マン敗戦記”(「ル・マン敗北、豊田章男社長の言葉の意味」「「勝利」と「人材育成」、トヨタが挑む二律背反」)の原稿を掲載した後、ふとそう考えた。レーサーやピットクルーといった、サーキットにいる人々ではなく、その部品やシステムを日本で作っている会社員たち、のことだ。

2016年の「ル・マン24時間」で走行するトヨタの「TS050ハイブリッド」(写真:TOYOTA GAZOO Racing)
2016年の「ル・マン24時間」で走行するトヨタの「TS050ハイブリッド」(写真:TOYOTA GAZOO Racing)

 フランス中部、ル・マン市にあるサルトサーキットを24時間、最高時速330kmで突っ走るレーシングカー。世界屈指の巨大自動車メーカーの、技術と、マーケティングと、意地のぶつかり合い。2016年6月、「ル・マン24時間」で約5000kmを走り抜き、23時間57分時点まで首位を走っていたトヨタTS050ハイブリッド(以下TS050)は、レース終了のわずか3分前に、突然止まってしまった。1985年以来のトヨタの挑戦は、またしても敗北に終わった。

 ある意味、これ以上ない劇的な幕切れを、チームを率いたトヨタの社員はどう受け止めたのかを、先の2本の記事で、ル・マン24時間を含めた世界耐久選手権(World Endurance Championship、略して「WEC」、ウェックと読む)のレースマシン開発を司る、レーシングハイブリッド・プロジェクトリーダーの村田久武氏らに語っていただいた(聞き手は藤野太一氏)。

 そのとき村田氏は「050ハイブリッドは、日本のいくつもの企業の皆さんが作ってくれた部品やシステムでできている。その人たちから渡されたバトンを最後に受け取って走る最終ランナーが、中嶋一貴ら、ドライバーなんです」と言っていた。

 だとしたら、中間のバトンをつなぐ、「トヨタ以外の」ランナーたちは、どんな気持ちで働き、レースを見ているのだろう。

中間を繋ぐランナーたちに会いに行く

 売上高やシェアならともかく、「勝負」がはっきり付く舞台に仕事で絡む会社員、あるいは経営者、って、なかなかない。彼ら彼女らは、村田氏の言う通り、ランナーの一員という気持ちでいるのか、あるいは、会社員として、仕事と割り切り冷静に淡々と働いているのか。さらに言えば、レースに絡む企業は、どう収益を上げ、成長しようとしているのか。きれい事だけではない、いろいろな答えがありそうだ。

 「あ、だったら、TS050の車体に名前が入っている協力メーカーさんに、直にお話を聞いてみてはどうですか?」

トヨタ東京本社に展示されていたTS050
トヨタ東京本社に展示されていたTS050
運転席の横に描かれた、協力メーカーのロゴ
運転席の横に描かれた、協力メーカーのロゴ

 と、従来のトヨタのイメージを(いい意味で)裏切る若手広報、Kさんが明るく言い放った。

 レーシングマシンの開発という機密保持に触れる分野のため、トヨタ側の協力(はっきり言えば許可)なしには取材は不可能だ。撮影もたぶん無理だろう。でも、本当にそんなことやってもいいの? 「だって、僕もお聞きしてみたいですから」(K氏)。

 ということで走り出した今回の企画。取材依頼は日経ビジネス編集部から行っているが、守秘義務をクリアする必要上、以下の原稿は、取材先ならびにトヨタガズーレーシング(TOYOTA GAZOO Racing、以下TGR)、トヨタ広報部による最低限の事実確認を経ていることをお断りしておく。

 …と、もっともらしく申し上げたが、レースの勝敗に関わる先端技術を解説する素養は残念ながら私にはない。レースや技術用語などでも至らない点は多々あるはずなので、該博な読者の方々にコメント投稿による補足をお願いしたい。本稿では、レースに限らず、ビジネスにおける「明確かつ大きな目標」と、「日々のとても地道な仕事」が、働く人の中でどうつながっていくのか、その(極端な例の)お話として、読んでいただければと思う。

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