お分かりいただけたでしょうか。直接的には金銭に関係がなくても、希少性が重要な要素であるときには、経済学はその分析に大いに役立ってくれるのです。

 では、経済学は何を分析するのでしょう。希少なもの・ことだからこそ、誰がそれを使うのか、誰がそれを使うことが望ましいのか、という問題を真面目に考える必要がある。それを考える学問分野が経済学と呼ばれている、というわけです。

 希少性を前提にすることで、経済学はいかにも経済学っぽいテーマをその中心に据えることになります。それが「交換」です。

欲しいものは誰かが持っている…

 無料では足りなくなってしまうものは、現時点では誰かの支配下にあります。それを手に入れるためには、所有者・支配者から譲ってもらう必要がある。なんらかの対価を差し出して、その見返りとして何かを得るという活動――これこそが交換・取引ですよね。希少性あるもの・ことがあり、それが生きていくために不可欠である以上、私たちの行動の多くは「何かと何かの交換」として表すことができます。言い換えると、私たちの社会の活動の多くが「誰かと誰かの取引の束」として、把握可能になるのです。

 希少性に加えて、経済学において重視されるのが個人の合理性です。

 経済学では個人、そしてその個人の束である組織は「合理的に行動すると仮定」されます。合理性、とか、合理的、という単語は少々誤解されやすく、これが経済学への偏見を生んでいる側面もあるようです。「合理的な人」というと、遠い将来のことまで見通す周到で冷静な人という意味だと感じられたり、感情に流されない、人の気持ちを考えない人といったニュアンスを含んでいたりもしますね。

 しかし、経済学の基礎に置かれている合理性は、そこまで限定的なものではありません。

 その人自身が何をすると自分がいまよりも満足できるかを知っていて、その満足度を向上させようとして行動している……くらいの意味です。もちろん、個別の経済理論のなかにはより限定的な合理性の定義を用いることがありますが、限定的な前提を用いた理論はその適用範囲も限定的となります。超基礎的で適用範囲の広い――ということは現実のビジネスや生活にも有用な経済学の知識は、限定の度合いの低い合理性の前提から導くことが出来ます。

 希少な対象を巡って、このような弱い意味で合理的な人たちがどのように反応するか。交換に応じるのはどんな条件がある時か。その人々の反応があつまって出来る社会は、どのような特徴を持つことになるのか。経済学の言葉はそれらを描写しているのです。

 キーワードを解説しながら、経済学から見た世界を旅しましょう。

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(日経ビジネスベーシック編)

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