経済学を学んでいくと、日常生活ではまずお目にかかることのない言い回しや漢字に出会うことがあります。その代表例が「逓減」や「逓増」という用語かもしれません。

 「逓」という漢字は「次第に~する」「だんだんと~する」という意味ですので、逓減は「だんだんと減っていくこと」、逓増は「だんだんと増えていくこと」を表します。これだけならば単なる漢字のお勉強ですが、経済理論の核になる部分で逓減性・逓増性は非常に大きな役割を果たすことがあります。そのひとつが「規模の経済性」に於いてです。

 「規模に関する“収穫逓減(diminishing returns)”」とは、「労働者や機械設備を同時に2倍にしても、生産量は2倍以下にしかならない」という状況を指しています。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

 これは農業を想像するとわかりやすいでしょう。同じ土地を耕す人数やトラクターなどの農業機械を倍にしても、土地面積が限られている以上、生産は増えても、倍にはなりません。また、耕す土地そのものを増やすとしても、優良な農地は限られていきますから、耕す面積を増やすにつれて、あまり土地が肥えていなかったり、日当たりの悪い農地が増えることになり、やはり生産増大のペースは低下していきます。

 一方の、「規模に関する“収穫逓増(increasing returns)”」とは、労働者や設備を倍にすると、倍以上の生産増加が見込まれる状況を指します。

 例えば、ミシン1台と縫製工1人で仕事をしているよりも、5台・5人で生産をすれば、同じ材料を共有することで調達の手間やコストを下げたり、得手不得手に応じて作業を分担するといった活動によって5倍以上の生産増が見込まれるかもしれない――という状況です。

都市と地方の問題を経済学で考えると…

 この、規模の経済性と関連が深いのが都市・地域の経済問題です。

 仮に、すべての場所・産業で経済が収穫逓減的な性質をもっていたならば都市は存在し得ません。事業規模はなるべく小さく、一定の土地に住む人はできる限り少ない方が効率的なわけですから、全ての人は自営業に就き、できる限りばらばらに住む、という国土利用が効率的となります。収穫逓減性の強い農業が主要産業であった時代は、これに近い状況だったかもしれません。