飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

 経済学で使う言葉には「収穫逓減」だの「限界効用」だのと、日常生活やビジネスの世界では使うことのない単語が少なくありません。しかし、このような経済学特有の単語は、聞けば誰しもが「経済学用語だな」と理解できるので、それほど大きな問題を引き起こすことはありません(少なくとも「わからないことはわかる」でしょうから)。

 一方で、時に深刻な問題を引き起こすのが「経済学の世界のみ、一般的な用法とまるで異なる意味で用いられる」単語です。たとえば…。

 「雇用保護のあり方を変えれば、長期的には失業は解消されるだろう」

 という主張を耳にしたとき、賛否はともかくとしてみなさんはどのように理解しますか?

 多くの人が(雇用保護を変えれば)数年、またはせいぜい十年くらいで失業率は下がると言っている……と受け止めることでしょう。しかし、この台詞を口にしたのが経済学者の場合、その理解は誤りです。

「長期」とは、期間ではなく「モデル通りになったら」

 経済学における「長期」とは、

  • その理論モデルが想定していない外的なショックへの反応がおさまり
  • 外的なショックがなければそれ以降の経済(失業率や所得など)に変化が起こらなくなるような状態

 を指します。
 非常にわかりにくい概念なので、喩え話で説明してみましょう。

 池に石を投げると、水面は波打ちますね。石という「外的ショック」によって引き起こされた波が消えて、水面が平らになった状態……これがこの池の長期的な状態です。

 ショックがどのくらい残存するかは? ケースバイケースでしょう。そのため、経済学における長期は具体的には「何年後のことかわからない」のです。