田中君が資料を1つ作るためには営業に割く時間を10時間(契約1/2本)の機会費用がかかる。一方、鈴木君の資料作成の機会費用は契約1本分です。ここから資料作成については田中君に比較優位があることがわかります。そして、営業について比較優位があるのは鈴木君ということになる。

 すると、部署内での分業は、田中君はできる限り資料作成を中心に仕事を行い、鈴木君には外回り中心に時間を使ってもらう、といった業務分担が必要ということになるでしょう。

比較優位を活かすために必要な条件

 自由な取引が必ず当事者双方の経済的満足度を向上させるのは、両者の間に価値観の違いがあるからでした。

 そして自由な取引や適切な分業が双方の生産性を向上させるのは、両者の間に技術構造の違い、つまりは得手不得手の違いがあるためです。

 そして、比較優位説に従うと、「絶対的な能力で劣っていたとしても、必ず比較優位な分野がある」という結論になります。

 もちろん、「比較優位」を活かすには、自由なコミュニケーションや人事評価の仕組みがあってこそです。お互いの得手不得手を知り、補い合うことでちゃんと評価される(契約書を取ることのみが評価され、資料作成が日陰仕事では、鈴木くんがやる気を失ってしまいます)ことが欠かせません。国際貿易に置き換えても同じことです。

 とはいえ、人と異なる得手不得手があることによって、誰もが意味のある役割分担を果たすことができる。それを論理的に示した比較優位説は、ある意味、経済学とは思えないほど(?)ヒューマニズムあふれる理論…と、言えるかもしれませんね。

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(日経ビジネスベーシック編)
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