貿易によってどちらの国が得をするかは、価格によって変わってきます。相対的に綿織物が高い(ワイン1本=綿織物1反)の状況ではE国のみが得をする一方でP国は損得なし、ワインが高い(ワイン1本=綿織物2反)の状況ではP国が一方的に得をして、E国は損得なし、となります。

 ただし、この状況は固定的なものではありません。

 綿織物が高いケースでは、綿織物を売って(相対的に安いワインを買う)取引が行われることで綿織物の価格は低下する(ワインの価格は上昇する)でしょうし、ワインが高い状況ではその逆の現象が起きます。そのため、国際間の価格比は一方の国のみが得をする両極端の交換比の中間くらいに定まるということになる。すると、比較優位を通じた交易によって両国ともに得をすることが証明される、というわけです。

 以上の理屈は、ワイン・綿織物の生産に要する人数が異なっていても、労働以外の原材料を考えても、財の数が増えても大まかな結論は変わらないという意味で頑健です。それどころか、ここまでの話は国と国の間でなくとも同じようになりたつのです。いえ、むしろ貿易以外の比較優位の方がビジネスの中では重要かもしれません。

仕事はできるヤツにやらせるのがいい?

 比較優位説は元々は国際貿易に関する理論として考案されました。しかし、ここまでのロジックは国境をまたいだ交易だけに適用可能というわけではありません。例えば、企業内で2人の部下にどのような仕事を分担させれば良いか……という問題を考えてみましょう。

 田中君と鈴木君という2人の部下について、1セットの営業資料作成と外回りで1件の契約を獲得することに要する時間が、以下のようだったとします。一見してわかるように、田中君は優秀、鈴木君はいまいちな人材です。経済学用語を使うなら、田中君は資料作成・営業双方に絶対優位、鈴木君は両業務について絶対劣位状態です。

必要時間 営業資料作成 営業
田中くん  10時間 20時間
鈴木くん  30時間 30時間

 このようなとき、ついつい田中君に資料作成も外回りも頼みたくなってしまうのが人情かもしれません。

 しかし、田中君の時間・体力には限界があります。「できるヤツ」に仕事を集中させた結果、当人を「つぶしてしまう」とか、耐えきれずに辞められてしまうという状況を目にしたことはありませんか?

 部署全体での効率を向上させるためには、絶対優位ではなく、田中君と鈴木君の比較優位に従って分業をさせる必要があります。具体的にはどういうことでしょうか。