E国とP国の主要産品は、どちらも「綿織物」と「ワイン」だとしましょう。そして、綿織物1反,ワイン1本をつくるために必要な労働者の数は両国で、

生産に要する人数 綿織物 ワイン
E国 1人 2人
P国 3人 3人

 とします。

 この表は、1反の綿織物を作るのに、E国なら1人で済むのにP国だと3人必要ということを表しています(品質は同じだとしましょう)。一方、ワイン1本を作るのに、E国なら2人で済むのに、P国だと3人必要というわけです。

 つまり、綿織物でもワインでも、E国のほうがP国より生産性が高い(綿織物なら3倍、ワインなら3/2=1.5倍)ことになります。気候がよいとか、労働者の能力が高いとか……理由はここでは考えませんがなにはともあれ、E国の方が技術水準が高い状態です。

 比較優位説が登場する以前の貿易理論では,国別の生産技術の優劣によって輸出・輸入が決まると考えられていました。このような考え方を「絶対優位説」と言います。

 この例では、P国の綿織物の生産性はE国の3割以下(1/3倍)、ワインの生産性はE国の7割以下(2/3倍)なのだから、P国はE国から綿織物もワインも輸入するだろう、というわけです。

最強国なら、輸入する必要がない?

 絶対優位説に従うと、綿織物、ワイン、ともにP国の技術水準はE国を下回るため,輸出するものがありません。そのためP国は、金・銀・財産などをE国に支払って財を購入することになるでしょう。そして、このような国富の流出は防がなければならない…だから「貿易制限や、他国より優位な産業を育成するための、幼稚産業保護が必要だ」という話に行き着くのが絶対優位説の特徴です。

 具体的には関税を課すなどして、輸入品を閉め出すわけです。…また最近聞いたような話になってきましたね。

 しかし、落ち着いて考えてみてください。仮に絶対優位に従って貿易が行われているなら、P国からE国に国富が永遠に流出していくことになります。しかし、P国は無限に金・銀をもっているわけではないでしょう。そして、E国も食べられない金・銀・財宝ばかりを永遠にほしがり続けるというのも考えづらい。金・銀・財宝は「将来欲しいものと交換できる」からこそ意味を持ちます。E国にとって唯一の「外国」はP国です。E国はそのP国から何も買わないのですから……そもそもなんで金・銀をため込もうとするのでしょう。絶対優位説は突き詰めていくと多くの矛盾が明らかになっていきます。

 また、現実の問題としてほとんどの産業について絶対優位を誇っていた18世紀の英国は輸入大国でもありました。そして、1960年代の米国はほとんどあらゆる財について世界最高水準の生産技術を誇っていましたが、世界中から多種多様な商品を輸入しており、むしろ貿易赤字が大きな問題になったくらいです。