体系的に理解しよう! とすると、なかなか手強いのが経済学(エコノミクス)。とりあえず、耳にしたことがある経済学用語の定義だけでも、「なるほど」と腑に落ちる形で学んでみませんか。テレビでもお馴染みの、明治大学政治経済学部准教授の飯田泰之さんが、ちょっと他所では読めない角度から、経済学のキーワードを読み解きます。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

 自由で競争的な市場では、取引を行った全員が得をすることになります。
 え、そんなお花畑はこの世にない?

 いえ、売り手にとっても買い手にとっても「得」だから、取引が成立するのです(もちろん、後で振り返ってみたら思っていたほどの得がなかったということはあるでしょうが)。

 そしてこの話には国境は関係ありません(→こちら)。価値観のズレやすれ違いがあるならば、むしろ、自由な取引が当事者双方の経済的な幸せさを向上させます。

 これは価値観だけではなく、2つの国の間で技術力が異なる場合にも成立します。

 生産技術に注目して自由な取引の効能を説明する――それが「比較優位説」です。このように、数学的なモデルを援用しながら社会問題を考える……というスタイルの元祖が、比較優位説に出てくる「機会費用」です(本当は先行する研究があるのですが学説史の詳細はさておき)。

 二国間の貿易に「機会費用」という概念を持ち込むことで組み立てられる比較優位説の論理は、非常に「頑健」です。

「頑健である」とはどういうことか

 ちなみにこの「頑健(robust)」「頑健性(robustness)」という評価軸は経済学に限らず、理論的に物事を考える際に非常に重要な概念なので、少し解説しておきましょう。

 経済学の理論は、非常に多くの仮定をおいた上で作成されます。多くの仮定を用いるほど詳細な分析が可能になるのです。その一方で、その仮定が現実と異なっていると理論は不正確なものになるでしょう。

 ここで重要になるのが頑健性です。仮定の一部が満たされていなくても、または仮定と現実が多少ずれていても結論が大きく変わらない理論を「このモデルの結論は頑健である」と評価したりします。仮定がそっくりそのまま当てはまらなくても、それなりに同じ結論が得られるのが「良い理論」のひとつの条件というわけです。これは経済学に限った話ではありません。難解で複雑な理屈ほど有用というわけではないのです。

 さて、比較優位説の説明に戻りましょう。

 比較優位説の主張は明確です。結論から先にまとめておきましょう。

・他国より低い機会費用で生産できる財を「比較優位財」と呼ぶ
・全ての国に(少なくとも1つは)比較優位な財がある
・比較優位財の生産を増加させ、それ以外の財を輸入するという活動を通じて全ての国の経済状況は改善される

 ここではもっとも単純な二国の貿易について考えます。世界にはE国P国の二カ国しかないと考えて読み進んでください。