この記事は、「日経ビジネス」Digital版で4月19日からスタートする新コンテンツ「日経ビジネスベーシック」からの転載です。詳しくは こちら

<筆者からのメッセージ>

ビジネスには「英語力」より「会計力」

 新聞の紙面には、連日のように企業業績に関する記事が載っています。売上高や利益が増減したといった内容です。ところが、なぜそうなったのかは、単発的な記事を読んだだけではなかなか理解できません。

 だからといって、過去の記事をひっくり返して読み返すには時間がかかり過ぎます。そして何より、会社の業績をつかむには会計の知識が不可欠なのです。企業社会では英語教育に注目が集まっていますが、ビジネスには英語力より決算書を読める「会計力」の方がずっと価値があります。

 会計力とは、決算書を突破口にして企業の実態を素早くつかみ、将来の姿をイメージできる能力です。

ビジネスと会計のメガネで企業を見る習慣を

 「会計の勉強をしたこともないのに、そんなすごいことができるのだろうか」と不安に思う方は多いでしょう。もとより、勉強さえすれば会計力が自然と身につくものでもありません。大切なことは、「ビジネスのメガネ」と「会計のメガネ」を通して企業を見る習慣を身につけることです。

 ビジネスと会計の両方を同時に学ぶのに最適なテキストがあります。それが「日経会社情報(以下、会社情報)」です。この連載は、新聞に取り上げられた“旬な会社”について、会社情報を突破口にして、楽しみながらビジネスと会計を学べる構成になっています。ぜひ読み続けてください。

(林總=明治大学専門職大学院会計専門職研究科特任教授、公認会計士、税理士)

鴻海、買収契約調印 シャープ再建最短2年

(日本経済新聞2016/4/3)

 第1回では、経営不振に陥ったことをきっかけに、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から買収提案を受け、同社の傘下に入ることになったシャープを取り上げます。

 鴻海は電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界最大手の企業です。簡単に言えば、スマートフォンや薄型テレビを販売するメーカーから加工組み立て作業を引き受ける外注工場です。外注といっても、その規模はけた外れです。従業員数は約130万人、売上高は約15兆円にも上り、売上高の半分以上が米アップルからの受託生産で占められています。つまり、鴻海はiPhoneの爆発的ヒットによって大躍進を遂げたのです。

 一方のシャープは、大手電機8社(日立製作所、パナソニック、東芝、三菱電機、ソニー、シャープ、NEC、富士通)のなかでは小ぶりながら、時代の流れをしっかりと読み取り、常にきらりと光る個性を持った製品を世に送り出し続けてきました。それは、シャープペンシルから始まり、ブラウン管式テレビ、ターンテーブル方式電子レンジ、太陽電池、世界初の電子式卓上計算機、ファクシミリ、電子辞書、電子レンジ、複合機、液晶テレビ、半導体といった時代の先端をいく製品でした。

【業績】に見える苦悩の痕跡

 すったもんだの末、鴻海に吸収されることになった後味の悪さは、どこからくるのでしょうか。おそらく、こういうことではないかと思います。

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