

明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
ちょっと唐突にはじめます。
今日の意味での経済学は「重商主義批判」から生まれました。
ここで少々注意を。「重商主義」というと、商業を重視した、または経済を重視した政策運営全般を指すものと考えてしまうかもしれませんが、それは大きな間違いです。
本来の意味での重商主義(mercantilism)とは、税や補助金を用いて輸出を奨励し、関税や貿易制限によって輸入を抑えることで国を豊かにすることが出来るという政策思想のことです。簡単に言うと、「貿易黒字・経常黒字は善!そして赤字は悪!」という考え方、と言ってもよいかもしれません。これに対して、「対外赤字・黒字を気にすることなく自由な貿易を行うことこそが国を豊かにするのだ」というのが、黎明期以来の経済学の基本的主張です。
ここまで聞くと、「そりゃ黒字は良いことだし、赤字は悪いことなのだから、重商主義は正しいのではないか」と思われるかもしれません。
経常収支が赤字のときのほうが景気がいい?
しかし、これは全くの誤解です。
ここ数十年の日本ではむしろ経常収支が赤字の時期に景気は良く、黒字のときに景気が悪い傾向が普通になっています。
なぜこのような現象が生じるのか……ここでは経済統計のルールに立ち戻って説明していくことにしましょう。
その前に、「貿易収支」と「経常収支」の違いをご存知でしょうか。
自動車や小麦など、形ある財を記録したものが貿易収支ですが、現代の経済で取引されるのはこのような形あるものばかりではありません。運輸や金融といったサービス、投資の配当や賃金支払いも国境を越えて行われるようになっています。
そのため、以下では財・サービス・所得の出入りを総合した「経常収支」について説明していきます。ちなみに2015年度の貿易黒字は6000億円ですが、サービス収支は1.2兆円の赤字、所得収支は18兆円の黒字。これらを合わせた経常収支は約17兆円の黒字です。
ここでもっとも単純なケースとして、世界には日米の2カ国しかなく、両国の間での今年の取引は「100万円の日本車1台が米国に輸出された」という1件だけだったとしましょう。この時、日本の経常収支は100万円の黒字(仮に1ドル=100円とすると米国は1万ドルの赤字)ということになります。
しかし、よく考えてみて下さい。この自動車の代金を米国(の企業か個人)はどのようにして支払ったのでしょう。
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